感想公開:2018.02.03(埃でできたお城)


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作品情報
アーティスト名:happyender girl
EPタイトル:laughing 2017
収録曲数:3曲
全曲作詞作曲:せせせ
ボーカル:初音ミク
掲載URL(音量注意):https://soundcloud.com/user-835905698/full-ep-laughing-2017-happyender-girl

感想

1. laughing 2017(0:00~)
 マウスのクリック音や、激しくも耳に心地よい打鍵音から始まる環境音。そこにボーカル初音ミクの歌が加わり、「その先は」から突発的に暴力的な演奏が始まる。歌詞と合わさって演奏が始まるのが安定した演出力を感じさせます。
 しかしやっぱり乗れる音楽で好きですね。「踊ろうぜ、笑おうぜ、考えるのなんてやめようぜ」からのポップさと、そこに挟まる電子音やドラムの演出するズレが気持ちいい。
「つまんなくなったなあ/幼稚になったなあ/これからどうなるんだろう/インターネット」から始まる歌詞。その後も比喩を交えながらも、「踊ろうぜ、笑おうぜ、考えるのなんてやめようぜ」と直截的に現代への諦観を表に出しています。「走り去る時間は睡眠不足の僕らだけを置いてく/情報と認識と相違する価値観で殺し合いはゲーム」という表現が好きですね。「睡眠不足の僕ら」にはもはや時間的にも精神的にも余裕なんてなくて、それなのに現代には個々の情報と価値観が「水かさを増」していく。結果「鳥も象も少女も」「無能も有能も国家も等しく転げ落ちていく」。

2. 2007(2:41~)
 2017年が「時代の水は濁っていて、更に水かさを増」しているというなら、2007年は「やさしいどろどろ」。そして「きらきらして、熱くて、速い、世界」であった、と。
 2007年は初音ミク(歌詞の「浅葱色の髪を揺らし声を響かす少女」)が初めて発売された年だそうで、その魅力が目に「焼き付いて」、「取り憑い」たという話者の感動が、やさしい音楽とともに伝わってきます。(「金色の髪を靡かせ心を盗み去る魔女」はおそらく東方Projectのキャラクターのことなのだろうとは思うのですが、それと2007年との関係はよくわかりません。詳しいひと教えて)

「laughing 2017」の歌詞にある「笑う2017年」と、この曲の「笑う0と1」とではまったく笑いの様相が異なるというのが、ひとつの演出になっていますね。日本語は便利だ。「それは儚いこと/それは終わること/それは残ること/まだ何も知らなかった」というのがまた切ない。

 最後、クリックの音で曲が閉じるのが「laughing 2017」のクリック音を想起させ、2017年(現代)への執拗なまでの回帰を思わせます。回想はあくまで回想、現実に舞い戻される切なさ。そこに慈悲はない。

3. 2017(6:54頃~)
 ノイズミュージック。大好き。
 実況中継のような忙しない音声や、聞き取るのも難しい音声。雑多な音声の数々が四方八方から入り込んでくる楽曲。
「加速する世界」「Youtube」「ニコニコ動画」「野獣死すべし」「助けて」などのワードが顔を出しては消える世界。
 先の2曲を参照して言うなら、現代=「時代の水」の混沌さを表現したのでしょう。現代の情報を、選び取ることなくすべて受け取ったとしたらこういう印象になるのかもしれない。
 途中のマイク音声と、ミクの声が癒し。何を言っているのかは定かではないですが。「誰も」「いないです」か。

 曲としては8:35あたりからの首の裏をくすぐるようなノイズが好きです。
 今更言うまでもないことですが、happyender girlは前衛的表現をこれでもかと取り組みながらも、同時に心地よい耳障りを実現できていて、個人的にはそこを尊敬しています。

 以上、感想でした。


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