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10▼ ボヤ騒ぎ


 蝶が舞っていた
 林の中の 薄暗い緑の中で
 もう六月 夏になる

 太陽の光は枝葉に遮られ
 湿気は林を抜け出せない

 蝶を眺めて
 俺は今 迷ったことに気付いた

 学校帰りに 寄り道を
 たまにはこれもいいもんだ
 そう思って 林に入った

 遥遠な空は窺えず
 微かに漏れる陽光は
 蝶の舞踏を奏で差す

 蝶を追いかけて 林を進む
 どんどん迷宮の深淵へと
 迷い込んで 追いかけて
 俺は屋敷を見つけた

 揺籃の赤子のように その屋敷は林に包まれ
 それでも意外と 家として機能しているようで
 ただ変わったことに 黒煙が木漏れ日のように流れていた

 鍵は開いていた 壊すことなく開くと
 中はまるで 暖炉の中
 人が倒れているのが見えた
 玄関から続く廊下の奥だった
 俺は入っていった 蝶は既にいなかった

 嵩張った煙 上座を陣取る
 動乱の刻を 振り切って走った

 倒れた人を担ぐ 重い
 煙を載せて歩く 出口へと逃げる
 討求の余地はなく
 林はそれでも静かだった

 その人が俺のクラスメイトだと気付くのも
 そう時間はかからない




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© 2012 Kobuse Fumio