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阿修羅大福


 天帝がグミを食べるとI'm coming!大福もちが何個もごろごろと転がっている。
 阿修羅は大雪をいかに処理すべきか悩んでいた。天帝との約束の時刻まで残すところ3,000年も残っていない。それまでに雪を溶かし、春を迎え入れねばならない。ところが大雪はうずたかく積みあがり、その自重によって冷気を生み出していた。たとえ真夏であっても、富士山の山頂よりも真っ白なまま残り続けることは明白であった。
 さすれば取る手はどこにあろうか。
 そう悩んでいると、天帝からLINEが届いた。
『いまどこおる?』
『家。そちらは?』
『グミ食べてる』
 天帝の返事を見て、スマホを放り投げる。スマホは雪に突き刺さり、冷却された。バッテリーは長持ちしそうである。
 どこにいるかと聞いているのに、グミを食べているとは何事か。なんの返事にもなっていない。グミを食べることが語用論的に何らかの場所を示す文脈になるのなら理解できようが、グミにそんな文脈はない。ないはずだ。阿修羅はやきもきする。
 しかし、食べ物を食べている天帝のことを思うと、確かに食べ物を食べている天帝の様子が思い浮かばれ、すなわち天帝が食べ物を食べている場所も同時に想像されうるのであった。
 畢竟、想うことこそが修羅である。
 阿修羅は大雪をすべての手でつかみ取り、大福もちを作ることにした。どれだけ多く積まれていたとしても、雪は雪である。丸めれば転がる玉にも、食い物を模したもちにもなるだろう。
 持ち前の機敏さで大福もちに仕立て上げていき、大雪を処理していく。
 そしてI'm coming!天帝との約束の地へと、大福もちとともに向かっていった。


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© 2020 Kobuse Fumio