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ケット・ルーと雲


 ケット・ルーの背中に寝転がって、雲の動きを眺める。こうしているのが何より好きで、暇なときでも暇じゃないときでも、私はふかふかの毛に身を沈めて、ぼーっと空を眺めに来るのだ。

 私の村は山々の連なったふもとにある。その山並みは竜脈と呼ばれていた。この世界の果て、竜の棲むところと繋がる熱が、地下水のように山並みに沿って流れているのだという。その熱は特別な熱で、恩恵を受けているこの村ではどんな作物でもよく育つのだという。熱そのものを採取できないものかと、王国から研究者たちがやってきたりもしていた。
 ケット・ルーは巨大な猫だ。研究者たちが建てた研究施設ほどは大きくないけど、私たちが住む民家のどれよりも大きい。
 ケット・ルーはいつも同じところで丸まっている。山に入って少し歩いたところに、ひときわ地面が温かくなっている大きな窪みがあって、そこにすっぽり納まるように丸まっているのだ。
 私が物心つく頃には既にそこに丸まっていた。研究者によるとあれは珍しい生き物ではなく、竜の亜種であるらしい。鱗も翼もない、こんなにふわふわした体なのに、どうして竜に含まれるのかは、よくわからなかった。

 雲が山並みの源流へと流れゆき、夕焼け空になった。私はケット・ルーの背中で立ち上がり、鋼鉄のようなヒゲをはしごにして地面に下りる。
「また明日。ケット・ルー」
 今日も、のんびりとした時間を過ごした。
 これからもそうであればいいなと思う。


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© 2018 Kobuse Fumio