●GLです。苦手な方はご注意ください。


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だめなつみ


 3時のおやつを食べられた。愛しのおやつを食べられた。おいしいおやつを食べられた。勝手になつみに食べられた。
 なつみは、あまり人のものと自分のものとの区別をつけないから、わたしのおやつを平気で食べる。対策を講じても食べられる。持ち歩いていても食べられる。だけど諦めはつかなくて、ただ、夜になると昼間の悔しみが毎晩のように甦り臍をつついてくるのが、つらい。
 なつみのことは好きだ。でも、恋愛要素を抜きにすると、こんなに付き合いたくない人はいないと思う。せめて盗み食いを防止できないのなら、償いをさせたいと思った。
「ねえなつみ」
「どしたのよっこちゃん」
「おやつを償って」
「わかった」
 なつみは鞄から手帳と財布を取り出した。そばに置いていたスマートフォンも手に取って、手帳を片手になにやら電卓アプリに打ち込んでいく。
「なにしてるの」
「計算してるんだよ」
 手帳を覗き込むと、そこにはなつみが盗み食いしたおやつの商品名と販売価格が記載されていた。並んだ日付すべてに、黒い文字が記されている。
「記録、してたんだ」
「そうだよ。記録は良いからねえ」
 何が良いのか、わからない。電卓を打ち終えるとまあまあの金額が表示された。なつみは分厚い財布からお札を何枚か抜き取った。
「はい。償い」
 それを差し出してくるので、あーこいつは本当にだめな人なんだな、と思って、
「やっぱつけにしといて」
 とだけ言って、わたしはまた同じ夜を過ごすのだった。


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© 2018 Kobuse Fumio