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夜明け


 埃が落ちてくる。照明は点かない。絆創膏。転がったコーラの空き缶。閉めきった窓。錆び付いた鍵。台所でコバエが飛んでいる。炊飯器の中身は腐っている。一杯になった郵便受け。定期購読していないはずの新聞紙。冷蔵庫の稼働音が部屋を充たす。ティッシュペーパーの空き箱。黄ばんだタオル。ツナ缶。シャープペンシル。レモン味の飴が布団にこびりついている。マグカップに冷めたコーヒーが入っている。積み重なったゴミ袋が落ちてくる。蛍光灯は外されている。蚊取り線香。中身の飛び出た歯磨き粉。不透明の窓ガラスに月光は映らない。くしゃくしゃになったカレンダー。つぶれたペットボトル。断線したカナル型イヤホン。水道代の請求書。水を張った流し台。割れた鏡。零れた砂糖。扇風機の前面ガードが外れている。布団にコーヒーのシミができている。スニーカーの紐が濡れている。植木鉢の花は枯れている。穴の空いた紙袋。散乱した髪の毛。預金通帳。フライ返し。電池切れの腕時計。動かないコンピュータ。ガムテープの芯。枕カバーのファスナーが開いている。細長い箱から食品用ラップが転がり出ている。コンセントに繋がっていないたこ足回線。鏡に写った人間は割れている。開けたままの旅行カバン。まな板にカビが生えている。脱ぎっぱなしの服。油の染み着いたフライパン。歪んだハンガー。黒ずんだキャベツ。換気扇は回らない。硬貨が散らばっている。チラシが無造作に放り込まれている。流れ星が落ちてくる。月が照らす。まぶたの裏は丘の上。レジャーシートがどこまでも広がっている。ひとりだけの空間。腕時計の針が動き出す。イヤホンから川のせせらぎが流れる。川辺で綺麗な花が咲いている。草が根を伸ばす。草花も眠りにつく。静寂が夜を充たす。居心地の良い暗闇に包まれる。優しい風が体を撫でる。風に乗った新聞紙が体に当たる。布団には黒いシミができている。夜が明ける。腕時計が止まる。大量の新聞紙。紙面に載った人間は割れている。冷蔵庫の中身は腐っている。レジャーシートが太陽の光に焼ける。徐々に狭くなっていく。使い終わった蚊取り線香がぼろぼろと崩れる。コバエが部屋中を飛んでいる。空が落ちてくる。暗闇が掻き混ぜられる。眩しい光に充たされていく。捻じれた脚。捻じれた腕。捻じれた胴体。体中が悲鳴を上げる。誰かが嘲笑している。誰かが蔑んでいる。立ち上がると頭を突き刺した。それは幾重もの矢の中傷。


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© 2015 Kobuse Fumio