「そういえば私エンディングノート書かなかったなーと思ってさ」
「エンディングノートですか」
「そう。残す人たちに向けてさ、メッセージとか、残したいじゃん」
「遅くないですかね」
「そんな発想なかったからね」
「死ぬので精一杯でしたか」
「死ぬのなんて一瞬だよ」
「そうですか」
「まあけっこう苦しんで死んだんだけどね」
「どっちですか」
「だからさあ、エンディングノート書こうと思って」
「はあ」
「でも思いつかないというか」
「思いつかないんですか」
「冷蔵庫のプリン食べてもいいよぐらいしか」
「じゃあそれだけ書いとけばいいんじゃないですか」
「それだとエンディングメモ置きじゃん。ノートじゃないと」
「他に遺族に伝えておきたいことはないのですか」
「うーん。なんかある?」
「自分で考えてくださいよ」
「ブレインストーミングしようよ」
「ところでどうやってノートに書くんですか」
「あーそうだった。死んでるからペン持てないんだった」
「やっぱり遅すぎましたね」
「代筆お願いできたりする?」
「代筆はできますがそれだと意味がないのでは」
「ないのかな」
「筆跡の真似もできませんし」
「内容で勝負しようよ」
「あなたの遺族しか知りえないことを書けば信じてもらえるかもしれませんね」
「冷蔵庫のプリンとか」
「仮想通貨で大損したこととか」
「それはみんな知ってる」
「じゃあ冷蔵庫のプリン食べてもいいよだけでいいですね」
「だからそれだけだとノートにならないんだって」
「でもわざわざ量を稼ぐのもおかしいと思いますよ。本当に伝えたいことだけ伝えないと」
「それもそうだけどね」
「ノートに書けば一行でもエンディングノートですよ」
「贅沢な使い方」
「ノート代と代筆料はご遺族に請求すればいいですか」
「それはやめて。パパに殺される」
「もう殺されてるでしょ」