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ゲノム


 あなたは人間というものを誤解している。花が咲く頃には、既に終末は過ぎているはずだった。ところがどうだ。未だ人類は悦楽に浸っているではないか。
 あなたは人間というものを誤解している。人間とはつまりただのヒトだ。ヒトゲノムをもつ有機物体だ。それがどうした。社会を築くのは自由にすればいい。環境を破壊するのも好きにすればいいだろう。人間はヒトなのだ。動物なりの権利があって、誰が目くじらを立てようか。神さえ終わりは創らない。今日の花は咲き、人間は不思議なことに生き永らえているのだ。
 あなたは人間というものを誤解している。なぜか判るか。俗諺にまみれたまま考えてみるがよい。足がかりとなるのはひとつだ。それは人間を破壊することだ。人間を支配することだ。人間は支配されねばならない。それを、あなたが果たすのだ。人間と動物の違いはなにか。そんな愚問は不要だ。パラドックスを生み出す神は、どうせ笑ったままなにもしない。なにもできないのだ。人間は堕落してしまった。人間の価値は、神にとって――現在の神にとって無駄なのだ。
 あなたは人間というものを誤解している。方法は簡単だ。ヒトからヒトゲノムを取り除けばいい。そうしたら花が咲くだろう。人間は滅ばねばならないのだ。それが絶対的な摂理だ。ヒトが花を見てしまった瞬間から、神は人間を見放していたのだ。
 あなたは人間というものを誤解している。さあ、早く結末を。天国は満場一致の空席だ。
 あなたは人間というものを誤解している。人間が生きていては、神の望む天国は創られないではないか。さあ早く終末を。
 あなたは


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© 2012 Kobuse Fumio