(4)
雨が降ってきた。どしゃぶりだ。濁った空から落ちてくる水滴の大群は、草地を容赦なく食い散らかす。
だけれど、えっへん。ぼくは濡れない。一滴たりとも被ることもなければ、湿ることさえないんだ。逃げ惑う虫たちが哀れで笑えるよ。
(3)
壁に、穴があることに気付いた。でも穴が小さすぎる。穴を拡げようとしても、穴の周りはあまりに丈夫で、とてもぼくの力では無理だった。
壁の向こうを、誰かが横切った。ぼくは必死に自分がいることを伝えようとした。気付いてくれた。気付いただけだった。影がぼくから去ってゆく。誰も助けてくれやしない。
ぼくは壁に頭を打ち付けた。壁にキズがついたように見えたが、よく見るとただ汚れただけだった。
(2)
目の前に食べ物が落ちている。だというのに、ぼくはそれを口にすることができない。進もうとしても、まるで見えない壁があるみたいに、足が前に行かない。いくら動いても。いくら踏ん張っても。
本当に壁があるんだ。そう思い至るまで、ずっと頭を擦り付けて、食べ物を睨みつけていた。
(1)
歩いていると突然、体が持ち上がった。視界が定まらないままにぶれてぶれてまるで極彩色だ。助けて、助けて。体中を危険信号が駆け巡っていた。なにか長い板のようなものに体が挟まれている。触れる板は冷たいけれど熱が込み上げてきた。ぼくはここで死ぬのだろうか。
こてん。板がぼくを離した。ぼくは落下して下に体をぶつける。でも、ぶつけたそこは地面ではなくて……。
一体なにがこんなことを。ぼくは怒りに駆られて周囲を見回した。視界に映ったのは、ぼくがどれだけ沢山あっても敵いそうにない大きさで、二本の足で立っていて、もう二本短い足は地面から離れてぶら下がっていて、体の一番てっぺんに、見るも恐ろしい頭があって。
ぼくを見つめている。