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至福の時間


 缶を開けた途端、鶏肉の濃いにおいが鼻を覆った。熟成されたにおいは鼻孔だけでなく体全体を刺激する。この五感はさながら秘境の虎の子だ。至福の時間をずっと味わっていたくなる。
 早速手を付けた。非常に柔らかい肉が、口内に充満する。ほんのりと塩辛い味付けとともに、ゼリー状のたれの絶妙な甘さ。至高の組み合わせに、舌鼓を打った。
 おっといけない。あまりの美味しさに思わず、口を半開きにしてニタニタ笑ったような顔になっていた。美菜子が「あっフレーメン反応だ」とからかってくる。「かわいいなもう」頭を撫でてきたので、彼女の懐に入って体をすり寄せた。「明日も持ってくるからね」
 まったく、人間というのはちょろい生き物である。


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© 2015 Kobuse Fumio