顔がいつもより冷たい。どうやら日差しも弱まって、涼しい季節になってきたようだ。
私は手入れの怠っているヒゲを気にしながら、暗い中を進んでいた。しんしんとそこは寒いが、私はむしろこの肌寒さが好きである。ヒゲが震える。
私は彼女のことを思い起こしていた。ぷいと私から顔を逸らした彼女。彼女のことが忘れられない。
そこへ、きゅーぴっとが現れた。
「へいへい、そこの旦那、あんさんあんさん」
不躾なきゅーぴっとである。
「なんだお前は」
と言うと、
「あっしはさすらいの、こいのきゅーぴっとでさぁ」
と即答された。
「あんさん、恋、してるんしょ? あっしが仲介いたしやしょうか。どんな女も、あっしの手にかかればイチコロでっせ!」
「断る」
即答し返した。
そこへ、
「へいへい、譲さん、今ならまだ間に合うよー?」
と向こうから声がする。
この方を向くと、そこにもきゅーぴっとがいた。私に背を向けて恋の相談をしているようなのである。
その相手こそ、今日、私の求愛を断った彼女であった。
「あ……」
彼女も私に気付いたらしい。
私はもういちど彼女に、愛の気持ちを伝えた。まだ間に合う。癪だがその通りなのだ。
「はい……」
今度は私の求愛に応じてくれた。私は歓喜のあまりヒゲを奮わせた。そして交尾を始めた。
冷たい水が揺れた。
タイミング悪く人間がエサを投げてきた。