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まぶたのうら


 左に大きな丸い靄。右には小粒の砂が散る。
 それらが次第につながって、ひとつの波打つ浜になり、まぶたのうらを横切った。
 私は眠っている。
 音を立てずに波がさざめく。寝息に合わせて上下に揺れる。
 息を吸うときは手前に満ちて、息を吐くときは引いていく。
 手前に寄りすぎて、ふちが見えなくなることもある。見えなくなると暗くなる。
 まぶたのうらに何も見えなくなる。
 そして再び波が引き、薄暗いスクリーンが映し出された。
「、  」
 幾度かの波の往来を見た後、目が覚めた。目を開けただけのようでもあった。
 カーテンを閉め切っただけでは日の光を遮るには不十分で、明暗が混ざり合い部屋に靄を生み出している。ざらざらとした砂粒のような光が無数に散らばっていて、布団から出られなかった。
 数日休んだ程度では起き上がれなかった。スマホの電源はおとといから切っていた。もう何も考えたくなかった。
 眠気は収まらず、まぶたのうらと同じ部屋の景色が、揺りかごのように揺れている。そのまま再び眠りに落ちた。
 左に大きな丸い靄。右には小粒の砂が散る。
 寝ても覚めても、見るのはまぶたのうらばかり。


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© 2018 Kobuse Fumio