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夏休みの宿題


 夏休みが終わり、二学期になった。学校に行くのは久しぶりではないけれど、友達はほとんどみんな「久しぶり」って声をかけてくる。中にはつい先週会った子もいるのだから癪だ。
 テニス部はほぼ毎日練習があった。陸上部もたぶんそうだったと思う。お盆を除いたほぼ毎日、太陽のもとでラケットをふっていた。面倒臭いのについ毎日来てしまっていた。上手くなっていく実感はなかったけれど。
 彼は、私に宿題を貸すことを楽しんでいるふうがある。去年、全教科を貸してもらったのが印象付けたのかもしれない。八月のはじめ、練習帰りに彼のほうから話しかけてきた。「今年は宿題借りないのか」って。私の顔を覗きこむようにして。
 彼は今年も陸上部の人と賭けをしていた。先に宿題を終えたほうが百円を手に入れることができるらしい。勤勉な賭けだ。彼は七月中、テニスの練習が終わった後、学校に残って宿題をしていた。たまに私も、彼と同じ教室で、一緒に宿題に手をつけた。そうして、彼は見事、七月中に宿題を終えたらしい。百円を陸上部の人から受け取っていた。彼が声をかけてきたのは、その数日後だった。
 数学と英語と理科だけ借りることにした。さすがに、二年連続で全教科借りるのは恥ずかしかった。
 彼の机には、数人のクラスメイトが集まってきていた。夏休みどうだったか、というような話をしているんだろう。彼はだるそうに椅子に座ったまま、その話を聞いている。白いカッターシャツの背中が目につく。
 私は鞄から夏休みの宿題を取り出した。自分の分と、彼のものもある。宿題の冊子三冊を持って、彼の机に近づく。うち一冊を私のものと入れ替えておいた。それに気付くことなく、彼はそっけなく宿題を受け取った。渡すときに彼の肩を触れると、なぜか私の肩がそわっとした。
 彼の反応は期待したほどではなかった。「宿題入れ替わってる」って言って英語の冊子を持ってきて、交換して、それだけだった。
 今日も部活はある。面倒臭い。それでも私は練習に参加してしまうのだ。


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© 2012 Kobuse Fumio