誰かの携帯電話が鳴った。この厳粛なる「おわりの会」の場において、会の進行を妨害する着信音はもはやこの会への冒涜だ。断じて許してはならない。
「誰ですかっ! いまケータイを鳴らした人は手を挙げてください!」
日直のマリエは声を張り上げ周囲を見回した。音はすぐに鳴りやんでしまい、場所まではわからなかった。しかしこの教室の誰かが、携帯電話の電源を切らずに所持していたことは確かだ。
ところが誰も手を挙げる者がいない。誰もが隣の席の人間と目くばせしている。
マリエは教室の隅に救いを求めるが、担任の教師は生徒の自主性を重んじるという教育方針のため眠りこけていた。
毎日小学校の最後に開かれる「おわりの会」を冒涜した罪は大きい。絶対に犯人を突き止めてやると、この手で捕まえてやるとマリエは決意する。
「犯人が出てくるまでみんな帰れませんからね!」マリエは黒板を叩いた。
「はぁ? 俺このあとクラブあるんだけどー」そうすると文句を言ってくる者も当然出てくる。マリエは文句を言ってきた彼が犯人に違いないと確信した。
「ちょっとあんた、ランドセルの中見せてみなさいよ!」
了承を得るよりも早くランドセルを開き、果たしてマリエは携帯電話を発見した。いまどき携帯電話を持ち歩いていない小学生などいない。
「この人が犯人です!」
そのとき、マリエの携帯電話から着信音が鳴り響いた。