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大きな教会の死体泥棒


 大きな教会のほかには、さほど目立った物のない北方の村。伝書梟に導かれ、便利屋〈沙漠庵〉のふたりはこの村を訪れていた。
 梟は教会の窓へと入っていく。背の低い家屋が立ち並ぶなかで、村の中心を陣取る教会は頭を抜いて高く、天辺の鐘を見上げようとすると首が痛くなるほどだった。
 サナが今一度、梟から受け取った便箋を読み返している。
「ここで間違いないみたい」
「ったく。遠くから依頼してきやがって」
 バクは教会の戸を叩いた。
 しばらくして戸が開き、中から辛気臭い顔をした男性が顔を出す。肩には先ほどの梟が乗っかっていた。どうやらここの教職者のようだ。
「沙漠庵っす」
「ようやく来てくださいましたか。こちらへどうぞ」
 教会の中は広かった。入ってすぐは礼拝堂で、その奥に講壇が構えている。講壇のうしろには垂れ幕が下がっているが、その裏にも扉があるようで、教職者はその先へと入っていった。ふたりも彼に続く。
 その部屋は薄暗く、寒かった。気持ちばかりの燈火が点いているだけで、足元もろくに見えやしない。
「それでどんなご依頼で?」
 足元を伝う冷気を払いながら、バクは教職者に尋ねた。
「こちらを」
 部屋を少し歩いたところで、彼は足元を手の平で示した。暗くてよくわからない。途端に部屋全体の天井や壁が発光し、部屋が明るくなった。梟が驚いて飛び上がる。
 サナが明るくしたのかと思ったが、バクが見遣ると首を振る。
 部屋全体を、棺が埋め尽くしていた。
「ここは……霊安室か?」
「似たようなものです。最近、村でひどい火災が起きまして、死体の魂を鎮めているところでした」
「でも、どれも空っぽみたいだけど」
「ええ、死体が盗まれてしまったのです」
 ふたりは顔を見合わせる。部屋を占める棺は、十ほどはあるだろう。そのすべてが盗まれたというなら、一大事だ。
「沙漠庵は特殊な魔法で事件を解決してくださるとか。おふたりにはどうか死体泥棒を見つけ出して、死体を取り返してほしいのです」

 ふたりはひとまず、現場に痕跡が残っていないか探して回ることにした。犯人の残した物があれば、サナの魔法で本人のいるところまで辿れる。
 心当たりがないか聞いても、教職者は首を振るだけだった。
「ねえ、あれどう思う?」
 棺をひとつひとつ確認しながら、サナが小声で耳打ちする。バクはサナの視線に沿って、部屋を照らす壁の光を眺めた。
「きっと依頼主の魔法だろう。魔法を扱える教職者は、少なくねえからな」
「でも彼からは魔力を感じない」
 バクは眉をしかめる。魔法が使われていないというなら、そういう構造の光源だったというだけだろうか。
「あれ、依頼主は?」
 気付けば部屋にいたはずの教職者は消えていた。扉も閉ざされている。
 棺がガタガタと揺れだした。フッと光が消え、部屋が闇に包まれる。
 サナが指先に光を灯した。しかし、光が足元の暗闇へと吸い込まれていく。
「どうやら騙されたみてえだぞ」
 掠れた光を遮って、棺がサナに飛びかかってくる。バクがそれを受け止め、振りほどいた。
「どうりででかい教会だと思った」
 扉はびくともしない。
 魔力泥棒に力を吸われていく中で、ふたりは脱出の方法に考えを巡らせる。


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© 2019 Kobuse Fumio