その一*金魚、お空を飛びます。
金魚、おなかがペコペコです。
タケルくんが、エサをくれない。
タエコままも、ヒロシぱぱもくれない。
だから金魚は、お空を飛びました。
青いお空には、綿菓子がいっぱい!
ふわふわの綿菓子。
おくちに含んで、
けれど綿菓子は消えてしまいました。
金魚は悲しくなりました。
しくしく涙を流します。
地面に涙が降り注ぎ、
植物たちは、元気いっぱい。
ぐんぐん、ぐんぐん、空まで伸びて。
お空に木の実がなりました。
金魚は、ぱあっと太陽みたいに、
ほほえみ顔を輝かせ、
おくちを大きく広げたら、
夢から覚めて水のなか。
その二*金魚、海へ行きます。
金魚、おなかがペコペコです。
タケルくんが、エサをくれない。
タエコままも、ヒロシぱぱもくれない。
だから金魚は、海へ行きました。
青い海は、色とりどり。
深緑のわかめや、
薄緑のうみぶどう。
金魚は海の畑を泳いで、
そこにいた、ヒトデさんに、
食べ物を分けてください、
と言いました。
優しい姿のヒトデさん。
好きなだけお食べ。
嬉しい言葉に、涙がぽろぽろ。
夢から覚めても、涙ぽろぽろ。
その三*金魚、宇宙を駆けます。
金魚、おなかがペコペコです。
タケルくんが、エサをくれない。
タエコままも、ヒロシぱぱもくれない。
だから金魚は、宇宙を駆けました。
宇宙の闇には、つぶつぶの光。
星のまわりをまわるゴミ。
そこまで泳いで、光を見ると、
それは、鉄のかたまりで。
宇宙を駆けて、食べ物さがし。
水星はただ熱いだけ。
火星の砂漠、なにもなく。
木星の海にも、なにもなく。
金魚は遠くへ遠くへ駆けて、
なにかないかと探します。
けれどもなにも。
ここにはなにもないのです。
地球に戻り、ゴミの軌道。
辿ってみたら、鉄のくず。
おくちをあけて、食べてみて。
吐き出したくても、もう出ない。
金魚は涙を宇宙に流し、
丸い水滴、飛んでゆく。
夢から覚めたら、水槽のなか。
その四*金魚、水槽にいます。
金魚、おなかがペコペコです。
タケルくんが、エサをくれない。
タエコままも、ヒロシぱぱも、
やっぱりくれない。
水槽のなかの、他の金魚たち。
ぐったりしていて、動かない。
ぼこぼこ泡が、出ているところ。
おくちを開けて、泡を食べても、
おなかは全くふくれません。
ぐったりしている金魚のそばに、
金魚の卵が、眠ってる。
金魚がそこまで泳いでも、
誰も動きやいたしません。
ああ、卵は木の実のようだ。
ああ、卵はうみぶどう。
金魚、おなかがペコペコです。
おくちを開けて、
泣きました。