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願いあぶれる


 願いがあぶれる。素敵な映画や音楽にもっと出会いたいし、美味しいものを食べたいし、気持ちよい汗をかく程度には運動したいし、旅行に行きたいし、一人になりたいし、何よりぐっすり眠りたい。願いに重さがあったならいまごろ潰れ死んでいる。あるいは窒息しているだろう。
 それでも、目に見えなくても、願いはあぶれる。行き場のない願いが溜まり溜まって限界を超える。
 そしたら、「うっ」、となった。
「うっ」、となって、あぶれた願いが口から漏れ出た。

 嘔吐された願いは、目に見えた。いろんな色の絵の具を混ざりあわせたような感じのお団子だった。触ってみると、カエルの卵みたいにぶにぶにした。弾力があって触るのが面白かった。触ると手垢がついて黒く汚れた。汚れても弾力は変わらなかった。
 ひとしきり楽しんだ後、袋にまとめて燃えるゴミに出した。

 後で聞いたところによると、あれは綺麗にして待ってやれば、孵ったらしい。何になるのかはわからないが、私は命を無駄にしてしまった。
 既に回収されたゴミ出し場を見遣って、かえらぬ願いを弔う。
 弔いの言葉は、うまく口から出せなかった。


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© 2018 Kobuse Fumio