かつて公園があった。かつてのことだが、いまもある。その公園のことを私たちは小説投稿板と呼んでいた。小説を投稿するための掲示板だから、小説投稿板。いやむしろ因果関係は逆で、小説投稿板と呼ばれていたから、小説を投稿していたのかもしれない。
ともかくかつて、私たちはそこで遊んで過ごしていた。そこは特定の二次創作専門の掲示板だった。書くものは限られていたが、限られていなかった。無限大で、多種多様にわたる可能性を書いては読んだ。はじめは人も多かった。いろんな人がいて、キャラの関係性に比重を置く人もいれば、前衛的な創作技術の開発に神経を注ぐ人もいた。作者たちが泣いて喜ぶような感想を書く読み専の人もいた。
そのころはチャットルームをレンタルして使うことも珍しくなかった。よく仲の良いメンバーでチャットに入り浸って、毎日のようにくだらない話で盛り上がっていた。そのなかでも特に仲の良かった人が三人いた。私たち四人は全員作者だった。
だからか企画もよく開いた。感想交換会とか、お題を決めて短編を募集したりとか。人が多かったから、参加者にも困らなかった。掲示板やチャットを介して私たちは、実際に会ったことがなくても、あるいは実際に会ったことがなかったからこそ、かけがえのない時間を過ごせていた。
けれども掲示板は徐々に廃れていった。人が減っていって、四人組のひとりも姿を見せなくなり、もうひとりも現れなくなった。
それから震災が起きた。一時的に人が大勢舞い戻ってきて、生存報告用のスレッドが立ち上がったりしても、ふたりは姿を現さなかった。
四人で作った企画は、残った私ともうひとりのきみとで細々と続けていった。掲示板の過疎化は止まらなかった。私もきみも、作者としての他の居場所を既に見つけていた。それでも私たちは、懲りずに企画を開き続けた。参加者がまったく集まらなくなっても、なんとかひとりかふたり見つけて、あるいは私たちだけで二次創作を書き続けた。何年もそれを続けて、きみとはリアルで出会ったどんな人よりも長い付き合いになっていた。顔も名前も知らないのに、はっきりと親友だと思えた。
そうしてあるとき、きみは現れなくなった。
企画は立ちいかなくなった。
公園はほとんど無人になった。
賑わっていたあのころには戻らない。仲が良かったあのころにも戻れない。
それでもその後の作者たちを、私はいまも探し続けている。