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5枚目のシャコ


 俺はこだわりを持っている。これだけは譲れないという熱いこだわりだ。
 そのこだわりは、普段は効力を持たないが、回転寿司に行ったときだけは違う。つまり俺のこだわりというのは、寿司の食べ方に関するこだわりだった。
 必ず、5の倍数枚目の皿はシャコを食べる。5枚目と10枚目に取るのは必ずシャコだ。食べ盛りの頃なら15枚目と20枚目もシャコだった。このこだわりは、俺が回転寿司に行ったときには必ず守る、何よりも重要なこだわりだったわけだ。
 ところが。
 ある時期を境に、シャコは回転寿司店のメニューから消えてしまった。シャコが回らなくなってしまった。注文しようにも、そもそも店に置いていない。
 それ以来、俺は回転寿司に行っても4枚までしか食べられなくなった。誰と行っても、どこの回転寿司に行っても、シャコがメニューにない限りは5枚目を食べるわけにはいかない。シャコがメニューになかったとしても、5の倍数枚目をシャコにするこだわりは、消えなかったからだ。

 ある日のことだった。子供がせがむので、俺はしぶしぶ一家で近場の回転寿司に行った。やはりシャコはメニューになかった。妻と子供が寿司を楽しむなか、俺はちまちまと4皿だけ食べ、お茶をすすっていた。
 空調がきいていないのか、どうにも店内は暑かった。ネタの鮮度に影響するのではないかと思うほどだ。悪態をつきながら袖をまくる。すると、目の前にとんでもないものが映った。
 こだわりが熱すぎて、その熱さがこの店の暑さに影響したのかもしれない。いや、何を言っているのかはわからないが、とにかく、とんでもなかった。
 俺の腕が、シャコになっていたのだ。
 子供たちがそれを見てワーキャーと騒ぐ。幻覚ではなかった。左腕がまるででかい腕時計か何かのように変形している。その上に、ぴたっと2貫のシャコ寿司が載っていた。
 まじまじと見てから、それを食う。
 ああ、まさしくそれは、5枚目のシャコだった。


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© 2018 Kobuse Fumio