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うつぶせでねむりたい


 雪が降り積もる街のなか、私は地面と向かい合う。無機質な作り物のにおい。ふしだらな風が纏わりついて、ねむらない私をたしなめた。風が雪を軽くする。雲にはまだ雪が残っている。
 難しい嘘を想像する。針で目玉を突き刺すと虹色の涙が流れた。妖精が入れ物を持ってきて、涙を溜めた。混ざった色が暗くなる。その入れ物は私の部屋だった。喉を渇かせた弟が、その部屋で、楽器を手で叩いている。明るい音がそとへと響き、耳を塞いだおじいさんが、包丁を持って部屋へ向かっていた。弟のしていることは、音楽ではなくて、騒音だと、おじいさんは本当に信じきっている。全部、難しい嘘。
 雪に押し付けた頬が、鋭く痛い。ぴりぴり広がる感情が、流れ出ることも知らずに居座っている。私はそれを針で刺して、なにごとも起こらないことを確認した。潰れずに壊れずに。私の感情は私のなかに。
 うつぶせでねむりたい。


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© 2013 Kobuse Fumio