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魔法使いさんとの夏休み


 魔法使いさんと夏祭りに来た。ベランダの窓を開けて花火の音だけ聴いていたら、またぞやいつものように箒に乗って現れて、ぼくを引きずり出したんだった。
「これ食べたかったんだよね」
 りんご飴を嬉しそうに舐める。魔法でしつらえたらしい浴衣は、花火の音色に合わせて模様を漂わせていた。そんなに堂々と魔法を使ってもいいものかといつだか聞いたけど、実際誰も気にしていないようだった。
「次、焼きそば行こう」
 手を引かれ、人ごみを進む。魔法使いさんがりんご飴を杖のように振ると、自然と人ごみは道を空けていった。誰も、その現象を不思議には思っていないようだった。
「というか、順番おかしいでしょ。りんご飴の次に焼きそばだなんて」
「きみはまた、常識的だねー」
 何がおかしいのかそう言うと笑って、彼女はりんごの表面の飴を、ばりばりと噛み始める。さっさと焼きそばに移行する魂胆なのだろう。
「ほら、焼きそば。ゴー!」
「食べてばかりいないで花火見ましょうよ。ここまで来たのに」
「家にいたくせに、言うね」
 去年のハロウィンのときに出会ってから、たびたびどこかに連れまわされては、好き勝手な魔法を披露されていた。
 夏休みの後にハロウィンは来ない。
 この夏でお別れなのをぼくたちは知っている。
 見えない花火の音が、屋台の上空で響いた。


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© 2019 Kobuse Fumio