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しっぽと暴力


 海老のしっぽを綺麗に食べたい! しっぽの殻には興味ない。寿司であってもフライであってもでかいの一匹まるまるであっても、とにかくしっぽの中身を綺麗に食べたい。
 と思ったがうまくいかない。そら、思っているだけではうまくいかないだろうさ。しかし実際にどんな方法を試してみても、うまく食べれる人に方法を伝授してもらっても、うまくいかなかったのだ。
「こう、つまんで引っ張れば殻だけ取れるよ~」
 と言ったのは誰だったか。確かにアドバイスをした本人は綺麗に殻を外せていたが、私がやってみると何度やっても成功しなかった。
 つまり私はしっぽを食べるのが下手くそであるらしい。あるいは、しっぽのほうが私にだけ意地悪を働いている可能性もある。
 この、後者の可能性について疑ってみることにした。
「しっぽさんしっぽさん。どうして意地悪をするんですか!」
 するとエビフライのしっぽはこう答えた。いや、中身でなく殻のほうが答えたのかもしれないが、区別はつかなかった。
「あなたはいじめがいがあるからですよ」
 なんだと! いじめがいってなんだ! そんな一方的な欲求のために快適なしっぽライフを邪魔されてたまるか! 私は憤慨した。
「意地悪をするのはやめてください。困っているんです」
「でも、しっぽにはしっぽの矜持があります。ただで食べられたくはありません」
「だったら私だけじゃなくてみんなに意地悪してください」
「それはできませんよ」
 なぜできないのか、と詰め寄ろうとしたが、いつかアドバイスしてくれた人の食べっぷりを思い出して、口をつぐんだ。
「なるほど。あなたの言い分も分かります。けれど私だけに意地悪をするのは不当な差別じゃないんですか」
「でも、あなたにはいじめがいがあるんですよ」
 いじめがいなんて口当たりのよい言葉で言われても、納得できるわけがない。結局いじめているだけじゃないか。このままでは埒が明かないし、話は平行線に進みそうである。仕方がないので私は暴力に走ることにした。
 しっぽを摘まみ、それを、殻ごと口に放り込んだ。
「ちょ、なにをするのです! やめ」
 すべてを言わさずに、ぼりぼりとかみ砕く。
 はじめからこうすればよかったのだ、不当な差別は不当な暴力で解決された。
 解決するとただ、私は強いけだるさを感じて、その後すぐにお茶で口内を洗ったのだった。


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© 2018 Kobuse Fumio