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太陽を破壊しに

 ぼくたちが生きていけるのはまったくあの太陽のせいだ。だからぼくたちはあの太陽を爆撃して破壊してやろうと意地悪な妖精のようにいやそれよりも質の悪い顔をして考えた。どうやればあの太陽を無に帰することができるのだろうとじっくりと思案してみたりブレインストーミングとやらをしてみたけれどどうにもうまくいかない。しかもそのとき出てきた案というのがつまりアンパン食べたいだとかまんじゅうって怖いよねだとか雨じゃなくて飴が降ってくればいいのにとか全部食べ物の話かよ!
 こうなったら仕方ないのでぼくたちはなにも考えずに行動だけ先に起こしてみることにした。そうすることでぼくたちはいい案を思いつくかもしれないしともすればその行動が良い結果をもたらすかもしれない。善は急げということでぼくたちは家を出て太陽の光を浴びた。ああ気持ちいい。違う違う気持ちいいからといってそれが太陽を残しておく理由にはなりはしないさだって日差しの心地よさというものは花の心地よい香りと似たようなものでつまり生き延びるために破壊されないために自然の摂理にしたがってぼくたちに媚びているだけなのさ。だからぼくたちはあの太陽を爆撃しなければあっそうかぼくたちは最初っから爆撃するつもりでいたんだそうかそうかだったらやることはひとつじゃないかそうだ爆撃するんだ。なにをブレインストーミングとかやっていたのだろう破壊する方法は爆撃なのだともうとっくに決まっていたんじゃないか。
 さてということなのでぼくたちはまず爆弾を調達することにした。でも爆弾なんてどこに売っているのだろう。コンビニに行ったけれどひとつも置いていやしない。雑貨店に行ってもあの広大な内容量をもつデパートメントに行ってもデパ地下に行っても爆弾は見つからなかった。ああ爆弾は非売品なのか。そうぼくたちが等しく肩を落としているとぼくたちはきゃーという女の悲鳴が聞こえてここはデパ地下だからその声がとてもよく響いてその方向に走って行ったんだ。女が悲鳴を上げるシチュエーションだなんてそりゃあバリエーションは少ないしそのどれであってもウヒヒなことになること請け合いなのだからね。いやいやそれは間違いだったし現実そんなにうまくいくもんでもないことぼくたちは充分に理解していたさ。でもそれは同時にぼくたちに希望をもたらしてくれたのかもしれない。女は覆面を被った男に片腕で抱きかかえられていた。近づくな! 近づいたらこのボタンを押すぞぐへへへ。男は気持ち悪い顔をしているのだろうなと覆面の下を想像しなくてもなんかハスキーな声色がそんな印象を持たせている。あ、爆弾だ。ぼくたちはその男をやっつけて爆弾を奪った。取り巻きがぼくたちを称賛するし女はぼくたちに泣きながら感謝している。いやいや感謝すべきなのはぼくたちのほうだよ爆弾がやっと手に入ったのだしそのきっかけとなったのはあなたの悲鳴なのだからね。でもぼくたちは紳士的にその感謝の言葉を受け止めてそれで連絡先を交換しようとも思ったのだけどあまり時間もないのだしそれはやめておくことにした。
 ぼくたちは爆弾を持って太陽へと向かう。走って、そして走ってあの太陽のところへと走って行った。あの太陽を爆撃して破壊して、ぼくたちはこの世界を変えてやるんだそして生きなくてもいい世の中にしてやるんだ。その野望を果たすためにはこの爆弾を持ってあの太陽に行かなくてはならない。でもいくら走ってもあの太陽にたどり着くことはできない。なぜだ。なぜなんだ。そうやって走っている間に夕飯の時間になってお母さんに叱られるからぼくたちは家に帰ることにした。もう全部太陽のせいなんだ。


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© 2014 Kobuse Fumio