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There is,


 私は自分がストーカー被害に遭っていることに気付いた。いくつもの目が、私がどこにいても私を凝視するのだ。駅で電車を待っているときも、会社で仕事をしているときも、果ては自分が家にいるときでさえ誰かに見られている。
 私は警察にかけあった。しかし私の表現が悪かったのか、警察官は取り合ってくれなかった。だけでなく、実はその警察官がストーカーであることに気付いた。すぐさまそこを逃げ出したが、どこにいても視線が、町行く人すべてが私を凝視してくる。
 私は友人に電話をした。彼にだけは信頼がおける。現に、彼からはストーカーの気配がしなかった。彼と電話をしている間なら……いや、やはり無理だ。多くの視線が、私の電話の内容を盗聴している。
 彼が、病院に行くよう勧めてきた。精神科の病院に。視線に敏感になって、気が揉めない状況を案じてくれたのだろう。私は彼の忠告どおりに精神科の病院に向かうことにした。
 医者は、私を異常アリだと判断した。そんなの信じられない。まさかストーカーのせいで私の精神さえもずたずたにされてしまったなんて。しかし違った。その医者自体がストーカーだったのだ。私は医者を押しのけて、必死になって逃げた。私の咄嗟の行動のおかげで、どうにか命は助かった。私は家に入り鍵を閉め、ふっと肩を落として崩れるように座った。
 私は洗面台に立って、顔を洗った。洗っても曖昧な視界は明瞭にならない。そのまま私は、洗面台に取り付けられている鏡を見た。
 そこに映る私の顔こそが、ストーカーの正体だと気付いた。


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© 2012 Kobuse Fumio