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ちこちゃんの話


 ここに、なんでもかんでも地球何個分かで考えてしまう女の子がいました。
 たとえばこんな感じ。
「ちこ、お茶買ってきて」
「わかった。お茶って地球0.000327個分のやつ? それとも地球0.00008175個分?」
「2リットルのお願いー」
「わかった! 0.000327個分ね!」
 いってきまーす。ちこちゃんはお茶を買いにお家を出ました。ちこちゃんのお家は立地が悪く、一番近いスーパーでも地球0.0000375個分は歩かないといけません(赤道基準)。それでもちこちゃんは歩くのが好きだったので、苦ではありません。近所の風景を楽しみながら、歩道を歩いていきました。
 高さ0.15kmの電柱がいくつも並んでいる道を歩いていくと、そのうちのひとつの電柱の傍に、地球0.0024525個分の内容量のダンボール箱が置いてありました。ちこちゃんは気になって、その中を覗き込みます。するとその中には、子犬が入っていました。捨てられたのでしょう。
 ちこちゃんは、生き物が大好きです。まだ地球0.00000000022個分の年も生きていないだろう幼い子犬が、ちこちゃんをつぶらな瞳で見つめている。それがちこちゃんには愛おしくてたまりません。
「おいで」
 そこでちこちゃんは、犬をおつかいのお供にしたのでした。犬はしっぽを振ってちこちゃんについてきます。良かった、捨てられてまだ間もなかったようで、犬は元気です。
 それは素敵な時間でした。犬をつれてのおつかいは、とても楽しくて、あっという間にスーパーについてしまったのですから。
 でも、スーパーの中にまで犬をつれて入るわけにはいきません。「ここで待っててね、0.0000000000000041857個分(min)もせずに帰ってくるからね」そう言って犬を置いてお茶を買いに入っていくのでした。
 ちこちゃんは急いでお目当てのお茶をとって、レジに並び、会計を済ませました。そしてスーパーを出ました。そこに犬はいませんでした。
 犬がいなくなってしまったのです。
 慌ててあたりを探し回りました。けれどもいくら探しても、犬はどこにも見当たらないのです。
 ちこちゃんは悲しくなりました。犬は大人の人につれていかれたのかもしれないし、自分でどこか好きなところに行ってしまったのかもしれません。けれどももう、犬と会えないのです。
「地球が何個あっても足りないくらい、大好きだった」
 そう言って、ちこちゃんは地球0個分の涙を流すのでした。


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© 2015 Kobuse Fumio