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わたしの視聴率はゼロパーセント


 わたしの視聴率はゼロパーセント。
 わたしを見たり聴いたりする人は一人もいない。鏡があればわたし自身がいるけど、わたしの他には誰もいない。
 わたしはテレビ番組に出たことがない。テレビの画面をのぞき込んでも、誰もその姿を撮ってはくれない。テレビの黒い画面にわたしの顔が反射するだけだ。その顔を見てくれる人もいない。
 わたしの視聴率はゼロパーセント。
 テレビを駅前のかたわらに置いた。わたしはそれに腰掛ける。
 ギタリストになるのが夢だった。それはもう叶わない。
 テレビを椅子にして、愛用のギターを弾く。Fコードが苦もなく弾けるようになったときは嬉しかった。楽しかったあの頃を思い出しながら、わたしは弦を撫でる。
 わたしの視聴率はゼロパーセント。
 立ち止まってわたしの音楽を聴いてくれるような人は、もう誰もいない。一人もわたしに目を向けない。
 わたしは地球で、最後の一人。


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© 2012 Kobuse Fumio