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ブラックコーヒー


 大人の俺はブラックコーヒーを飲む。討伐軍訓練所からの帰り道。自動販売機の前で香しき漆黒の飲料を堪能するのだ。
「あ、ブロント。なにしてんの」
 そこへ、赤毛の魔法使いマゼンダがやってきた。
「やあやあ其処に居ますは炎を使いし魔法使い、マゼンダではないか」
「なにしてんの」
「見て解らぬか。討伐隊訓練所からの帰り道の最中である俺は、こうして安息の時間を取ることで明日の訓練に備えているのだ」
「あ、そ」
 マゼンダはつれない顔で自転車を引いていく。
「ちょ、ちょっと待ちなよセニョリータ」
「あ、そうだ」
 マゼンダが振り返った。部活動で使っているらしきラケットのカバーを肩にかけている。
「山田がさー、あんただけ宿題出してないってさ」
「え、まじで? てか宿題あったのん」
「山田ソフテニの顧問だからさ、うるさいのよね。あたしは関係ないってのに」
「す、すまん」
「んじゃそういうことだから。魔王討伐もいいけど、宿題やってよねー」
 そう言い残してマゼンダは去っていった。
 ブロントは空き缶をゴミ箱に入れ、とぼとぼと下校路を歩いていくのだった。


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