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冷たい夜風


 ルファ。ミドリ。対峙する二人はぴりぴりとした空気に纏われながら、それが、最後の戦いであることを実感していた。
 死すれば、負ける。これはエルフとアマゾネスの戦いだ。個人の死が種族の明暗を決める、月夜。
 二人とももう布きれのようにぼろぼろだった。幾度もの戦闘の末に、彼らはいる。ルファの喉は枯れ潰れ、ミドリの腕は捻じれている。おそらく次の一撃が、勝敗を決することになるのだろう。
 まず動いたのはルファだった。氷の魔法。氷晶が彼の眼前を滑空し、薄い氷の絨毯を敷く。「これで終わりだ!」その言葉を最後にルファの喉は完全に潰れた。空気が凍り刃となる。刃は複雑怪奇に絡み合い、夜風が壁となってミドリに襲いかかった。
 これに当たれば死ぬ。しかしこれさえ退くことができれば、ミドリは勝利するであろう。ミドリは、複雑に捻じれていた腕を、強引にもう片方の腕で捻った。もはや痛みも感じない。この一撃さえ持てばいい。先の欠けた斧を、捻じれた腕に絡ませて強く。強引に叩く! 夜風を一毛に切り裂き一直線に叩き上げる! 「オレの勝ちだー!」斧が手からすり抜け飛んでいく。冷たい夜風に乗った斧は、ルファを目がけ、もう自由の利かぬ喉に命中した。
 こうしてアマゾネスが、長いエルフとの闘争の末ジャングルを獲得したのだった。
 魔王討伐隊の面々が、物陰で静かにその場面を視察している。彼らが二人に救いの手を差し伸べることは、ついぞ、なかった。


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