どうか私に、翼をください。
そう言ったのは妖精のティンクだった。
「でもあんた、あるじゃない」
ティンクには四枚の翅が生えている。透き通った綺麗な翅が。
ちがうのよ、私が欲しいのは翼、こんな翅虫なんていらないわ、翼。私はあの大空を駆けのぼる大きな翼が欲しいのよ。
「なにがちがうのよ。あんただって飛べるじゃない」
でも大空は無理よ。せいぜい天井に吊るした電灯を触って感電する程度しか、この翅では飛べないのよ。
贅沢な妖精だ。飛べるだけマシだというのに。でもこれ以上彼女と口論しても時間が無為に流れるだけだから、なにも言わなかった。
あーあ。神様。どうか翼をくださいな。どうせ電球にぶつかって死ぬ人生ならいっそあの太陽に焼かれたい。そのほうがご立派だと思わない?
だというのに妖精は口を閉ざさなかった。これ以上の会話が無駄だということに気付いていないのだ。
「だったら感電しなければいいじゃない」
そう言って妖精の翅をつまんだ。ちょっとなにするのよ! 翅に傷でもついたらどうすんのよ! ちょっと。あっ。
むしると妖精の体は粉砕した。翅だけ取れる構造にはなっていなかったようだ。
そのままぐりぐりと半身をすりつぶす。
「きっとこれで、大空だって飛べるわよ」