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孤島の波


 討伐隊一行は無人島に流れ着いてしまった! 目を覚ました隊員たちは右往左往する! ここはどこ! 魔王城に向かっているはずだったのになぜか孤島に辿りついてしまった! 船もないのに! それもこれも隊長が悪い! 隊長は(ならびに隊員はみな)方向音痴なのである。方向音痴は海をも渡る! このワビサビの心して!
「で、どうしよう」ブルース隊員が呟いた。口で呟くだけでなくツブヤイッターでも呟こうとしたが携帯機器は浸水し使えなかった。他の隊員の通信機もみな壊れていた。海岸でマゼンダ隊員が嘆き散らす。彼女のスマートフォーンには今までしたためてきたポエムが貯蔵されていたのである。彼女は生粋のポエマーであった。魔王討伐隊に入隊したのもポエミーな情緒を錬成するためであった。そんなことは露知らず隊長が白き歯を見せ彼女の肩を撫でる。「心配するな! きっと帰れるさ!」
 場所を把握することは困難至極であった。ルファ隊員が双眼鏡で直接太陽を見る(良い子はマネしないでね)ことで太陽の高さから現在が朝であることを予測し、影の向きから方角を割り出す。「双眼鏡いらないでしょ……」と言うはティンク隊員。しかし双眼鏡や太陽以前に、裸眼で魔王城が見えることに彼女は気付いていなかった。そのことに最初に気付いたのは、最も目の良いミドリ隊員である。「おい、あれ魔王城じゃないか?」彼女の報告を耳にし、隊長がすぐさま手でひさしを作る。確かに水の走る先に城壁が見えた。きっと魔王城に違いない。隊員たちは歓喜した! マゼンダ隊員はさっそくその嬉々たる情緒を砂浜に書き綴った。少し大きな波が砂浜を浚った。ところで海は渡れない。


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