-


トップページテンミリオン15分即興一覧


どこにも存在しない惑星ほしから


マゼンダの独白:

 それは自作自演だとテレビを見た人は言うのかもしれない。けれど本当の世界がそこにはあって、けど「視聴する」という方法だけでは、幾分か存在の根拠としては弱いといえる代物だった。だって立っているだけでも、存在がわからなくなるのだから。この惑星は。
 魔王討伐隊がこの惑星に不時着したのはほんの数時間前のことだった。魔王が眠るといわれる惑星、ダピターを目指して進行していたはずが、予想外の強い重力に引かれて、この惑星にやってきた。エンジンを黙らせるほどの超重力に引かれて、生きていられるわけがないとは思ったが、こうして討伐隊は全員が生きており、ただ磔のようにこの星に閉じ込められてしまったわけだ。

 さて、状況を確認しよう。私たちの様子はすべてリアルタイム(大いなるタイムラグあり)でお茶の間に提供されている。だからこの異常事態にはすぐにでも星の仲間たちが気付いてくれるはずだ。
 問題は、この事態がありえない、ということだった。なかったはずの星が、それも惑星の規模の星が、急に現れるなんてことはありえない。そんなことが起こってしまったら太陽系なんて形も維持できなくなってしまうでしょう。討伐隊の悪い冗談だ、と言われてしまったら、それまでといえるし、現に私たちも冗談でありたかった。
 その惑星にはきちんと陸地があって、大きさは私たちの星と同じくらい、だがあまりに重さの大きい物体で構成されているらしく、重力の大きさは比ではない。例えるならば宇宙外生物の動物園をつくろうとしたハンターのあのお姉さんが、冥王星で陥った閉じ込めと似ていて、ブルースたち整備班がどうにか復旧できないものかと頑張ってくれているが、宇宙船はうんともすんともいわなくなっていた。

 恐怖は意外と感じなかった。宇宙のどこか存在も知らなかったような星に閉じ込められてしまったというのに。
 同様に、宇宙の神秘に触れたのだというセンスオブワンダーを感じることもなかった。ただ、なにも感じなくて、これからどうすればよいのか、ということを必死に考えているみんなの傍ら、この星の地面に座り込んでいる。討伐隊の着る宇宙服は環境整備にも優れていて、だから私はいまのところ安全に座り込めている。
 これからどうするかは、お茶の間のみなさん次第だ。どうか私たちを探してほしい。
 まあ、あまり期待はしていないけれど。


トップページテンミリオン15分即興一覧