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おしまい(チャンチャン)


 人類は滅んでしまった。
 精霊たちは大慌て。至急新しい顧客を見つける必要が出た。誰かからの信仰を受けないと精霊たちも滅んでしまう。光も闇も、風も大地も、てんてこ舞いだった。今までのんびり過ごしている間に人間がひとりもいなくなってしまった。数が減少しているとは思っていたが、まさかいなくなってしまうとは。彼らは人類に代わるものを探すために、世界中を調べまわった。
 しかしそう簡単には見つからない。魔物はいたが、どれもこの長い歴史の中で知能を失っていた。昔であれば人類と意思疎通を繰り返していたコボルトやオーガーがいたが、彼らは今ではデスコボルトやゴーレムゾンビ。もはや思考する能力なんて残っていなかった。
 その騒ぎのなか、水の精霊と火の精霊だけはマイペースを保っていた。
「ねえねえ火さん、私の指輪知りませんか?」
「またなくしたの」
「数百年前までは持っていたはずなんですが……」
「仕方ないなぁ。探しに行ったげるよ」
 火の精霊はそう言って、過去へとタイムスリップする。数百年前の世界にはまだ人間がいた。
「ねえねえ君たち、指輪知らない?」
 顕現し人間たちに話しかけると、女神の存在に彼らは歓喜した。
「探してくれたら、祝福を授けちゃうんだけど」
 彼女にとって祝福というのは、火による祝福だ。火とは文明の象徴であった。たくさんの冒険者たちが水の指輪を探す旅に出た。多くの者は帰ってこなかったが、そのうちのごく一部が、遠く、魔王城の奥底に眠る指輪を見つけ出したのだった。
「なぁんだ。闇ちゃんが悪戯してたのか」
 火の精霊は納得した。そして言っていた通り、人類に文明の祝福を授けた。
 文明はミズキを生み出した。ミズキは世界の救世主となったのであった。


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