光さんは初詣に来ていました。着物のうえに羽織をはおり、鳥居の下をくぐります。
人間の姿に顕現しての、お忍びのお出かけです。他の精霊さんたちにも内緒。光さんはきょろきょろと辺りを伺いました。たくさんの人間が列を作っています。光さんはにこりと微笑みました。
一度、こういうところに来てみたかった。天上から見下ろす人の列に混ざること。その楽しみがようやく叶えられようとしているのです。
見よう見まねで手水舎で手を洗い、人の波につられるように列へと加わります。そして自分の番になり、また見よう見まねで、賽銭を投げるのでした。
(私の光がいつまでも届いてくれますように)
光さんはそう願って、満足してその場から天上へと帰っていきました。
急に姿を消して、着物と羽織だけが残った場所を見て、人々は目を疑ったようです。
光さん、せっかくお忍びで来たのに、おっちょこちょいですね。