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魔王の祖父


 平成最後の夏なのは、魔王城でも同じこと。偵察から帰ってきたウィスプが、来年改号することを知らせたのだ。
「これほど重要な情報、探し出すのは困難だっただろう。褒めてつかわす」
「ピギギ、ギギピュ!」(これくらいわたくしにかかれば朝飯前ですさ!)
「それで、改号後はどんな名称に?」
「ピギギ!?」
 来年には時代が変わる。時代の変わり目は妙なノスタルジーを感じさせる。魔王はふいに祖父のことを思い出して、胸のうちが懐かしくなった。
 そこで城内を休みとして、祖父に会いにいくことにした。
 魔王の祖父は、隠れ里にひっそり暮らしている。小さいころはよく遊んでもらった。魔王としての業務や人間との争いですっかり忘れていたが、隠れ里に足を入れた途端、懐かしさは確かなものとなって実感した。
「おじいさま、お久しゅうございます」
「おお、魔王か。よくぞ参った」
 魔王は自分とうりふたつの闇の精霊の手を取った。彼は最後に立ち入った者と同じ力を得る。魔王の力を得た祖父の手は、自分の手のように、若いみずみずしさだった。
「人間はどうやら、来年に改号するそうなのです。時代の変わる前に、一度、おじいさまに会っておこうと思いまして」
「ははは。なぁに、時代が変わってもわしは変わらんさ」
「そのようです」
 魔王は、再度その手を優しく握った。


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