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求む豪雪


「なんですかこの雪の量は。気合あるんですか? ゆきだるまのひとつも作れないじゃないですか。もっと雪よ降れー豪雪になって家を埋めてしまえー降れー」
 テミは豪快なものが好きであるらしい。クロウは熱を逃がさないようにじっと佇みながら、五歳の妹の叫びを観察していた。雪はぽつぽつと降っている。積もる気配はないが、それでもやっぱり寒かった。
 テミはお天道様に向かって罵詈雑言を浴びせかけている。そんな言葉どこで覚えたんだろうと不安になるが、そんなクロウも厭わずにテミは空に向かって中指を立てている。
 テミの迫力に押されたのだろう、天はついに観念したようだ。急に空が暗くなったかと思えば、どさっと、バケツをひっくり返したような雪が落ちてくる。クロウはテミの体を抱えて、すぐさまそこを離れた。雪が落下した衝撃が轟音を立て、地響きとともに雪がうねり、あたり一面はあっという間に雪の海になった。
 クロウはなんとか海の浅いところまで走りぬいた。押しつぶされなかったのが不思議なくらいに、あたり一面の銀世界。村を立ち並んでいたはずの家屋が、ほとんど雪に埋まっていた。教会のてっぺんのとんがった部分だけが、氷山の一角のように頭を出している。
「それでいいのです! そうです! わーい!」
 テミはすぐさま状況を受け入れ、歓喜の声を上げた。
「お兄様! 雪合戦をしましょ!」
「ゆきだるまを作るんじゃなかったのか」
「何事よりも闘争ですよ!」
 五歳児が雪の砲丸を投げつけてくる。クロウの顔面にもろに当たり、クロウもその気になった。
 キャッキャと黄色い声が雪上を駆ける。世界は真っ白だった。


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