マカロンがいい? それともマクガフィン?
母親にそう聞かれたときは困惑した。マカロンは知っているけどマクガフィンってなんだって思ったし、そんな質問を急にされたのもよくわからなかったからだ。まあマカロンと並べているのだからきっとマクガフィンというものもなんらかのスイーツなのだろう。ぼくはそこまでマカロンは好きではなかったので、「じゃ、マクガフィンがいい」と言った。だからこうして物語の世界に入ってしまったのだ。
マクガフィンを選択してから、ぼくはテンミリオンという世界にいる。その世界ではぼくはブルースという名前で、弓矢を扱う魔王討伐隊員だった。ぼくはどうやら隊長のブロントや、隊員のマゼンダたちと幼馴染であるようで、気兼ねなく向こうは接してくる。だがぼくには彼らの記憶はないので、対応は曖昧になりがちだし、でも元々ブルースという人はそういう性格らしくて、「なんだよ、緊張すんなよ」と笑われる程度だ。
まあとにかく、ぼくは討伐隊員として、戦う使命にあった。物語のあらすじは簡単、少年たちが魔王討伐隊を結成して、魔王の根城を目指して旅をする、そして最後には魔王を倒すのだ。明快でわかりやすい物語。だからぼくも投げうったりせずにきちんと魔物との戦闘をこなしている。弓矢を使うからぼくは後衛で、あまり鋭い攻撃ができるほど弓矢に慣れたわけではないから、山なりに打って攻撃する。それでも意外と矢は刺さるもので、足手まといにはなっていない。
戦ったり攻撃を食らったりすると、経験値が増える。経験値が増えるとレベルが上がる。レベルが上がるとなんだか強くなる。それを繰り返す。繰り返しながら次のエリア、次のエリアへと進んでいく。そろそろ物語的には逆境が必要なんじゃないかな、とか偉そうなことを思ってしまうくらい順調な旅だった。と思っていた。
ぼくは死んでしまった。
コボルトに囲まれて。
ぼくは死んでしまった。
でも、生き返った。テンミリオンでは、死んでも生き返るらしいのだ。ただレベルが半分になっている。半分になっているから強さも半分だ。他の隊員は死ななかったから、他の隊員の半分の強さということになる。これは正直焦った。ぼくだけが取り残されてしまったのだ。
「大丈夫さ。とりあえず追いつくまではこれで補佐してくれよ」
ブロントが、そう言って回復の杖を渡してくれた。ぼくは回復は得意じゃないのに、それで隊員の回復をしろという。
隊長って優しいんだな、とそのときになってようやく、ぼくはゲームの住人に愛着を持ったのだった。