駅前で捨て猫を見つけた。駅の前だなんて、駅員がどうにかしそうだけど、置かれた直後だったのだろうか。
自分の状況が分かっていないのだろう、捨て猫は段ボールのなかで大人しく座っていた。人懐こそうにみゃあと鳴く。
「おーよしよし。かわういやつめ」
可愛いものには節操がなかったので、軽率に首の下を撫でた。飼い猫だったのだからきっと清潔だろう。
と、思ったのだが、触るとべたりとした感触があった。
「おまえ、さては汚いなー」
みゃあ、と猫が鳴く。猫の体はべたりとしているだけでなく、ひんやりしている。外に放置されて冷えたのだろう。
つれて帰ろうと思った。
「おかえりなさいー。なんですかそれ」
テミが出迎える。
「拾ってきた」
私は答えた。
「マゼってちょっと節操ないですよね」
「そうかもね」
テミは呆れた様子で溜息を漏らす。
「タオル温めてくるのでそのまま持っててくださいよ」
「うーい」
腕のなかの猫を見遣る。腕にくるむようにして持ち帰ってきたが、感触はいまだ冷やりとしていた。のんきそうな真顔でみゃあ、と鳴いてはいるが、少し心配だった。
テミが猫をタオルでくるむ。優しげに、その体を温ませていった。
「この子ね、首のあたりがべたべたしてるんだよ」
「そうなんですか」
タオルが首のあたりを撫でる。すると、猫の首がぐにゃりと歪んだ。
「うん?」
歪んだまま、猫の首が180度後ろを向く。みゃあ、と鳴いて、私を見上げた。