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スモールサイズのビッグスケール


 ティンクは絶望色に染まっていた。頭のてっぺんから、足のつま先、翅の先にいたるまで、絶望に浸っていないところはなかった。小さな体に、ぎゅうぎゅうに感情が押し込まれる。いまにも破裂しそうな心が、現実から目を逸らさせようとする。けれどティンクは決して目を逸らすことはできなかった。
 プリンが、食べられていた。
 ティンクがお手伝いで貯めたお金で、ようやく手に入れたプリンだった。皿洗い(大きい)一回10ゴールド、肩たたき(全体重乗せ)5分10ゴールド、そのほか様々なつらい労働に耐えて貯金してきた。それでやっと買えたプリンが、いまでは空の容器になっている。
 妖精はいまだ搾取されなければならないというのか。ひとしきり絶望に浸ると、その湯は次第に怒りに湧いた。そうだ。犯人を捕まえるのだ。そしてプリンを弁償させる。弁償だけでは済まない。恨み、はらさでおくべきか。
 しかし探すまでもなく犯人はすぐに見つかった。すぐに名乗り出たからだった。
「ごめんねティンク。ティンクのプリン出しちゃった。どうしても魔王様が食べたいと仰るから……」
 同じ労働条件で働くマゼンダが、そういった。討伐隊は魔王の支配下にあった。
 怒りをマゼンダにぶつけるわけにもいかず、ティンクは、にぶい笑みを作った。


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