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それでも空はあんなにも青かった


「私モーゼになろうと思うんですよー」
 そう言ったのは毎度おなじみテミさんだ。テミさんは思いついたことを行動せずにはいられない活動的な僧侶さんだ。たまに倫理観の崩壊したこともやってしまうので、僕は隊長からテミさんのお目付役を任されていた。
「はあ、今度はなにするんですか」
「ブルースさん、モーゼといえばなんですか?」
「さあ。海を割るとか?」
「いぐざくとり!」
 テミさんはシマネからの帰国子女だ。たまに流暢な英語を話す。
 ということで海に来た。夏真っ盛り、ビーチにはたくさんの海水浴客たちがいた。
「こんなに人がいるのに、海を割っちゃっていいんですか?」
「奇跡を目撃する人間は多ければ多いほどいいんですよ」
 テミさんは胸を張る。残念ながら水着ではなく、暑そうなマントを羽織っていた。モーゼスタイルのつもりなのだろう。
 マントで身を包んだ状態で、愛用の回復の杖を握っていると、確かにどこぞの預言者のような趣を感じさせる。
 テミさんはその姿のままやけどしそうに熱い浜辺を土足で歩き、海の目の前にまでやってきた。そして回復の杖を掲げる。
「ホアタァ!」
 テミさんが喝を入れると、回復の杖が青白く輝きだした! 地鳴りのような音が響き、テミさんの目の前を海が分かたれていく。海水浴客の悲鳴が上がった。
「やめるんだ! テミさん!」
 自分の任務を思い出して、僕はテミさんの腕を掴んだ。
「妹に何をする!」
 どこかでひっそり見守っていたらしいクロウさんが、テミさんの腕を掴む僕の腕を掴んだ。
「お兄様! また私の邪魔をするおつもりなのですね!」
「いや邪魔をしているのはこのブルースのはずだが」
「問答無用! お兄様なんてこうです!」
 テミさんの巴投げが決まった。杖を持ったままなのになんて器用な攻撃なんだ。僕は感動した。僕とクロウさんは割れた道の真ん中に放り投げられた。そこを中心にするようにして、海が十字に割れた。


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