「この戦いが終わったら、みんなが幸せに暮らせるんです」
テミが祈るように言った。実際に祈っているのかもしれない。野営に灯す焚火の音が、彼女の喉の震えをかき消している。だからきっと、その震えは私にしか聞こえなかったし、私に聞こえればそれでよいと思っていた。
ルファが小枝で焚火をつついた。ジルバがつまらなそうに星の数を数えている。
四人で夜の番をしていた。他の六人はテントの中だ。二人とも何も返さなかったが、テミの話に耳を傾けていることはわかった。静かなのが苦手なのだろう、ひとり訥々と話すテミを、ここにいる三人は誰も止めやしない。
「幸せになって、教会を立て直して、お兄様と正式に仲直りして。でもそのためには根源を絶たないといけない。つみきをいくら積み重ねても、つみきを崩す人がいたら何も変わりませんから」
幸せ。
果たしてそんなものを手に入れる旅なのか、私はテミのようには未来を信じられない。夜風は冷たくはなかったが、毛布を羽織らないと心もとなかった。遠い星空はここと離れている。
「マゼンダは、どう思いますか?」
テミが火から視線を外す。その先に見る私の顔に、なにか私の感想が出てしまったのなら失敗だ。
「どうって、言われても」
言えっこない。
十匹の犬が放し飼いにされている。彼らは魔王を倒したがっている。彼らが魔王を倒すことを、ケージの外の誰もが願っている。
でもその先は?
「私にはわからないな」
ぱちりと焚火が音を上げる。交代の時間は、まだやってこない。