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泳ぐ関係


「俺は関係ない」
 そう言って目を背けてきた。村を去った日も、コロシアムで生き延びた日も。それが狂言であることは自分が一番よく知っている。しかし裏を返せば、自分さえ黙っていれば、誰も知らないことだった。
 ぬかるんで混沌とした空が、いくつもの渦を巻いていた。魔王城、城壁付近の森林で息をひそめ、討伐隊員たちは機を待っている。城門にはゴブリンが立ち構え、城壁の上にも何体ものガーゴイルが待機していた。来る我々を予想して、魔王は警戒態勢を敷いている。
「ちっ。隙がねえ」
「さすがに感づかれてるよな」
 地図を広げながら、ブロントとジルバが話し込んでいる。
 魔王城には昔、来たことがあった。コロシアムで育てられると決まったとき、その許可をくだしたのは魔王だった。その際、あの城に連れられたのだ。

「クロウ、といったな。そなたは、襲撃された生まれ故郷をどう思う? 大勢の知り合いが死んだことだろう? 中にはおまえの家族もいたか? さぞかし悲しかったことだろう」
「俺は関係ない」
 魔王に返した言葉は、ただそれだけ。何を理解したのか魔王は不敵に笑って、まだ幼い俺を受け入れた。

 あのとき、魔王の従者に連れられて、城の案内もされた。
 あのときの記憶が確かであれば、あるいは、あのときと内装が変わっていないのであれば、この城には裏口があるはずだ。緊急時の非常口。そこから攻めれば、警備は手薄のはずだ。
 俺は関係ない?
 そう思ったことなんて一度もない。両親を失い、テミとも生き別れになった。けれど育ての親のガーゴイルのことは、心から親しんでいた。もうこの争いは終わらせたい。そのためには、魔王を討つほかない。
 すべて俺と関係しているんだ。もう決心は固まっていた。
「裏口を知っている。地図を見ても無駄だ」
 二人に、そう話しかけた。二人は顔を見合わせ、無言で何か考えていたようだったが、「よし」と膝を打った。
「お前を信じよう」
 ブロントが手を差し伸べる。俺はその手を、取った。

 魔王があのとき、わざと俺に城の案内をさせたのだと知ったのは、それから数刻もしないときだった。


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