ミドリさんは快活なひとだけど、たまに、というかひんぱんに、何を考えているのかわからない顔をすることがある。遠くを見つめているようで、すぐ近くを見ているようで、どこを見ているのか定まらないようで、どこも見ていないような顔をして、ひとと会話を続けたり、立ち止まったりする。そのときのミドリさんは不思議だ。不思議だし、素敵だ、と思う。
でもミドリさん自身には自覚がないみたいで、私がミドリさんのその症状について指摘すると、そんなことは知らないという。それに、私以外に誰もミドリさんのその表情を知らないというのだ。けっこうな頻度で目にしているはずなのに、私と一緒に目撃しているひとだってそれなりにいるはずなのに、私以外のひとは、誰も、ミドリさんのあの顔を知らない。
「よーマゼンダ。あけましておめでとう」
お正月をワンルームで過ごしていると、ミドリさんが一升瓶を携えてやってきた。ミドリさんはあまりお酒をやらない。でも私はお酒をやる。ひと並み以上にやっている自覚はないけれど、ミドリさんと初めて出会ったのがサークルの飲み会だったから、そういう第一印象を引きずられているのかもしれないとよく思う。
こたつに向かい合ってぜんざいを食べた。私はお酒を通した。
「ミドリさんもおうち帰らなかったんですね」
「ああ、まあ遠いからな」
「そうですね。遠いですもんね」
言うと、ミドリさんがあの顔をしていた。とても素敵で、ミステリアスな、何かを考えているようで、べつだん何も捉えてはいないような、顔をしていた。
「マゼンダ、その顔だよ」
「え?」
「たまにぼーっとしてるよな、おまえ」
――見惚れてるのか?
と、からかうようにいうミドリさんの言葉で、腑に落ちて、酒も喉に落ちた。
「そうですね。見惚れてました」