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一人は解散


 魔王をついに倒した! 魔王城の中、討伐隊は歓喜に包まれる。しかし一人だけ深刻な顔をしている者がいた。隊長のブロントだ。彼の様子に気づいたマゼンダが、どうしたの、と聞く。それがいけなかった。
 ブロントが言う。「あーはい注目ー。ぱんぱん」サンバを踊るように顔の横で手を叩きながら。オーレ。
「なんだなんだ? 祝辞か?」ミドリが茶化す。「祝辞って、気が早すぎですよー」テミがえくぼを見せた。これもいけなかった。
 ブロントが、顔色一つ変えずに全員を見る。その冷たい表情に、みんなも異変に気付き始めた。
 いいや、異変があるという実感はあれど、それが一体なんなのかは、誰も分かることはできなかった。
 そしてブロントは無表情のまま、冷徹に言い放ったのだ。
「今から、討伐隊の誰かを解散させます」
 全員が耳を疑った。笑えない冗談だと思った。だが違った。ブロントは一切笑ってはいなかった。ブロントは本気だったのだ。しかしジルバは鎧の中で吹きだしていた。この時ばかりは、スライムの粘液攻撃を食らったとき以上に、口元を隠していて良かったと思ったらしい。「誰かを解散」実におかしな言い方だったからだ。それをいうなら追放や解雇ではないのか。解散だとまるで、討伐隊そのものが崩壊したかのような印象を受ける。ジルバだけはそんな些細なことを楽しむことができたが、それは、彼がブロントの幼いころを知っている兄貴分だったからに違いない。しかし彼もまた、ブロントがいかに本気であるのかには、考えが及んでいなかった。
「なので今から投票します。いっせーので、誰か一人指さしてください。その人が解散です。ではいきます。いっせーの、せ!」
 彼の進行は強引だった。強引で、突然であるあまり、それを逆らう者もまたいなかった。流れに乗るままに、戸惑いながらも全員が方々に指を指した。緊張の集計が行われる。結果、一番票を集めたのは言いだしっぺのブロント本人だった。
「そうですか……。あなたたちにはがっかりです」
 彼は目を瞑る。「ちょ、ちょっと。これ一体どういうこと?」マゼンダの言葉に、ブロントはもう耳を傾けない。
 そして。
 ブロントの金髪がみな、頭から解散し、彼は禿になった。


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