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道がある


「マゼンダさん、ちょっとそこにお座りなさい」
 テミに言われたのでマゼンダは座布団に座った。テミが口うるさく言うので、正座ならもう立派なものだった。
「ひとつなぞ解きをいたしましょう。マゼンダさん、あなたの目の前には三本の道があります」
「ありませんよ、テミさん」
「なぞ解きですよ? 本当にあるわけないでしょう」
 まあ一本だけなら、目の前にいる気がしないでもないが。
「ひとつの道は険しい道、もうひとつは整備された道、最後のひとつはきらびやかな装飾が施された道です。マゼンダさん、あなたはどの道を選びますか?」
「さあ……目的地に着ける道を選ぶと思います」
「もう少し設定を練りましょう」
 テミは大きくため息を吐いた。そんなに変なことを言ったつもりはないが。
「マゼンダさん、あなたは三人の男から求婚されています」
「えっなんで知ってるの」
「えっ」
「えっ?」
「は?」
 テミが立ち上がった。さすが華の着物が似合う、その立ち姿は金剛力士像のように美しい。
「今のはたとえ話です。たとえ話のつもりでした。えっ三人から求婚されているんですか。まじで?」
 テミが口調を崩す。マゼンダもそれにならって正座を解いた。
「そうなんだよー、ひとりは貧乏なイケメン、ひとりは平凡なやつだけどまあまあエリートみある人、もうひとりは芸能人」
「げーのーじん」
「イケメンはほんと顔が良いし性格も童話のプリンス並みなんだけど、金がないしバンドマンなんだよね」
「わたし童話の王子様みたいな性格の人は好きになれないです。童話のプリンスみたいなバンドマンってなんすかそれ」
「二人目は聞いたことないような名前のとこに勤めてるんだけど、話してると学があるなーって感じあるし、収入もそこそこな人」
「ほうほう」
「三人目は芸能人」
「げーのーじん」
 テミは立ち上がった勢いを殺して、ゆっくりと正座に戻る。
「ごほん。で、マゼンダさん。あなたはどの道を選ぶのですか?」
「どの道も選ばないよ。わたしの目的地はあんただもん」
「え、そんな急に。ふへへ。照れますよ。えへへー」
 とりあえずそう言ってやると四本目の道は顔を赤らめるのだった。


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