停電した。帝国軍の作戦本部は真っ暗になった。
ざわつく兵士たち。副将の「静かにせんか、おい、静まれ、静まれい!」という声が一層闇に響く。
魔物対策第一部隊の我々は、この深夜に作戦会議をしていた。進行プランの最終確認だった。おれたちはこれから闇のなか、敵に奇襲をかけようと目論んでいたのだ。
その最中の停電。深夜であるし、月にも覗かれぬ窓のない設計。光源の絶たれた部屋はまさしく暗闇だった。
すぐ隣に座っているだろうクロウの姿も、自分の手元さえ、目には映らない。
「お、おい……」
おれはクロウに声をかけた。ざわつく中、隣のこやつだけ妙に静かだったからだ。
もしかしたら突然の暗闇におびえているのかもしれない。
だが、クロウは返事をしなかった。
「おいおい。ビビってんのか?」
いるであろう距離感の見当を付け、その肩を小突いた。
すると。
「え?」
それは、どう考えても人間の感触ではなかった。柔らかい低反発枕のような跳ね返りがおれの手を伝う。
しばらくして電源がついた。予備電源が作動したのだろう。
目を慣らし眼前を確認すると、そこには案の定クロウがいた。
「お、おい……」
クロウはなにも答えない。その顔は真っ赤だった。頭には猫耳がついていた。
「黙っていてすまない。実は俺は、怖くなると体が猫になる体質なんだ」
クロウはそれだけ言って、猫のようにすばしっこい動きで部屋を出ていくのだった。