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その顔


 ブルースは変なところで笑う。
 例えば私が仔犬を介抱してやると笑う。廃村に取り残された仔犬が哀れじゃないのか。それとも私がそんなに似合わないのかと、ねめつけるが、ブルースは笑う。
「いや、ごめん。笑うつもりはなかったんだ。でも、おかしいんだ。
 マゼンダがおかしいわけじゃないよ。その仔犬がおかしいわけでもない。でもおかしいんだ。
 おかしくないことが、ふふ、どうしようもなくおかしいんだよ」
 そんなことを言う。
 つまりブルースは、おかしくないことが、おかしくて笑ってしまう性質らしい。ひねくれたやつだった。
 ブルースは、元々は実直な人間だった。故郷で一番の弓使いだったのは、その正確で冷静な頭脳を持っていたからだ。かつての彼はあまり笑う人ではなかった。でも討伐隊の旅が続いていくうちに、ブルースはよく笑うようになった。
 リンやミドリのような、途中から参加した討伐隊員はブルースのことを単なる変人だと受け止めるけど、初めの頃のブルースを知っている人間は、そうはいかなくて、それはひとつの枷、のように、私たちの足取りを重くする。私たちが深刻な顔をすると、一層ブルースは、おかしくなくて笑ってしまうのだ。
 そのうちブルースは笑いながら矢を放つようになった。笑うと呼吸が乱れる。命中率が落ちるようになった。
 ブルースを解雇する、とブロントが決めた。これ以上彼を抱えるのは、彼にとっても、隊の安全にとっても、難しいことだった。
「そうか。ごめん、ごめんね。最後まで力になれなくて。
 どうかお元気で。どうか」
 おかしくないから、ブルースは笑っていた。
 別れを告げるその目からは涙がこぼれていて、そのくせ笑っている、その顔があまりにも奇妙なものだから、私もつられて泣き笑いした。
 気づけばブロントも泣き笑いしていた。
 この顔がずっと貼り付かなければいいな、と、私は考えながらブルースの背中を見送るのだった。


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