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この素手が


ああ、発作だ。
リンは雪原に立ちすくむ。ここのところ安定していたから、気を緩めていた。
けれど爆弾はいつだってこの胸を陣取っていた。
意識しなかったわけではないのに。ただ、目を逸らしたかっただけ。
雪原が深紅に染まっていく。リンと、目の前のそれを遠巻きにするように、仲間たちが様子を窺っていた。
その顔はどれも真っ青で、この寒冷地帯によく似合っているよね。

暴力と凶暴性。
別物だと思っているのは武器を使っている人だけで、つまり討伐隊のリン以外の皆で。
素手で魔物を殺しているリンにとって暴力とは凶暴性だった。
この手が、血の味を覚えていく。血を求めるようになっていく。
発作が起きるたびに、野生の動物を殺して飢えをしのいでいた。
けれど、北に行くにつれて見かける動物は少なくなっていた。
ただの武器だったなら、血を求めたってみずから動いたりはしない。
この素手もただの武器だったなら良かったのに。

コボルトを掃討し、皆は勝利の喜びを味わっていた。
けれどリンには足りなかった。もっと、欲しかった。
隊長の顔が潰れている。抉れた穴からじわじわと血液がこぼれ出ていた。
遠巻きから、アーチャーがリンに矢を向けている。
リンは血に満たされていたから、逃げなかった。


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