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リレー小説(お題:かわいくデフォルメされた魔王様が汗を流している)

執筆:フィンディル、淡月悠生、u17(執筆者別に色分けする

歩けば遠のき、遠のけば歩く。僕は3日間、それを続けている。砂漠。
事の発端はなんだったか。確か、魔王様が小さくなってしまった……と、ガーゴが腕に抱えて飛んできたのが始まりだったような。
その小さな魔王様はというと、僕の頭上で僕と同じように、暑さにへばっている。
砂漠は広く、目的のオアシスへは一向に近づけなかった。しかし、オアシスにたどり着かないと、魔王様を元の体に戻すことはできないのだという。
持参した食料は2日分。つまり昨日尽きた。太陽は照り続け、闇の精霊である魔王様の消耗も激しい。端的に言って、状況はまずい。
僕がこの役割を担ったのは、「大回復の杖」を所持しているからだ。
「ゴブガリ。魔王様に何かあったら……殺す」
ガーゴの据わった瞳を思い出す。このままではまずい。色々と。
一歩一歩が重い。進むたびに砂に足をとられ、脚を持ち上げるのに力がいる。この調子では殺される前に干からびてしまうだろう。
「お~いガリ。まだ着かぬのか」
高い声で魔王様が嘆いた。僕のツノをにぎって、ぐったりと体をのばしている。
「後5分ほどで到着する予定です」
「それ、299回目なんじゃが」
「300回目が楽しみですね」
「だな!」
この言い訳が魔王様に通用する内に、早く見つけねば。
大回復の杖でいくらか誤魔化してはいるが、食料がないため、大元の体力がどんどんすり減っている。300回目は迎えられたとしても400回となるとさすがに厳しいだろう。僕の直感を信じるのなら、おそらく317回くらいが限界だ。
ああ、本当にオアシスはどこにあるのか……。
「掘ったら出てきたりせんかのう」
「……まさか、そんなことは……。……ちょっと試してみますね」
オアシスがあるはずの場所にオアシスはなく、ぐるぐると予定地の付近を歩き回っている状態だ。……掘ったら何か見つかる、というのは、案外有り得るのかもしれない。試してみる価値はありそうだ。
遠くの蜃気楼を睨みつけながら、その場で砂をかき分ける。下を向くと人形のような魔王様が頭の上からずり落ち、ぶらぶらと視界を覆った。ツノにぶらさがり面倒くさそうに「んあ~」と喚く。
「邪魔なのでちょっと下りててください」
魔王様を砂の上に移す。魔王様はぐでっと砂に頬をつけ、湯気をあげた。
そして僕は発見したのだ。オアシスを。
魔王様が湯気を上げるのも無理はない。魔王様の背中にオアシスが広がっている。オアシスは魔王様だったのだ。
「……! そうか! わかったぞ!」
大回復の杖を振る。魔王様が秘めていたエネルギーと砂漠が放出するエネルギーが一体となって、瞬く間に緑の草原が広がっていく。
たちまち一面、緑豊かになり、さらに魔王様の寝転がっているところを中心にして池が生まれた。
「魔王様の汗にこんな力が秘められていたなんて……!」
魔王様は水面にぷかりと浮かんでいる。対して僕は、どんどん水に足場をのまれて、溺れそうだった。慌てて後ろに下がる。
何はともあれ、無事にオアシスを見つけることができてよかった。これで魔王様も元に……あれ?
「お~いガリ。まだ着かぬのか」
「ど、どうして……」
魔王様は小さいままだ。オアシスに辿り着けば、元に戻せるはずなのに……。
いや、待てよ?
そもそもオアシスに着いて、「どうすれば」魔王様が戻るのか、僕は何ひとつわかっていないんじゃ……?
「もう300回目じゃぞ……まったく砂の上は寝心地が悪いのう」
「魔王様! 起きてください。目を開けて。もうここはオアシスですよ!」
「んお? オアシスじゃと!」
魔王様は水面で上半身を起こし、きょろきょろとその場を見渡す。小さくなった魔王様は、池のうえで座り込めるほど軽いらしい。そう思っていたのに。
「……なにを言っておる。ガリよ。どこも砂ばっかりではないか」
「いえ、ですからここが」
「それにガリよ。起きてくださいと言うが、ガリも寝ているではないか」
僕は目を開けた。砂漠の地平線が縦に走っている。僕は砂漠に倒れていた。
もしかすると、僕は疲労のあまりに幻覚を見ていたのかもしれない。
疲労だけじゃない。プレッシャーもあったし、不安も大きかった。それで、有りもしないものを見てしまったのだろうか。
とてとてと歩いてくる魔王様は、大きい頃に比べてずいふんと可愛らしい。オアシスがすぐそこにあると言っても過言ではないし、むしろ言い足りないくらいだ。
でも、事態は振り出しに戻ってしまった。疲労がいつも以上に重くのしかかってくる。……僕はもう、ダメかもしれない……。
「こら! しゃっきりせんか!」
魔王様の声が間近に聞こえて、ぎょっとする。意識がはっきりした。
魔王様はいつの間にやら僕の肩によじ登っていた。耳に直接話しかけてきたのだ。
遠くにはいくら近づいても離れていくオアシスの蜃気楼。足元にはいくら掘っても砂ばかりの穴。
魔王様の顔がすぐ近くに見える。汗を流している。
頭を悩ませているうちに思い出したのは、ガーゴの言葉だった。
「魔王様に何かあったら…………殺す」
小声(しかも早口)で、付け加えるように、続きがあった。
「だから本当にまずいと思えば助けに行くからギブアップしろ。小さい魔王様も可愛いししばらくはそのままでも……いやなんでもない忘れろ」
僕は空を見上げ、ありったけの声で助けを呼んだ。

「もっと 早く 言え」
頭に魔王様を乗せ、疲労困憊の僕を小脇に抱えたガーゴが不機嫌そうに怒鳴る。
「上手く行っているのかと思っただろうが。なんかこう……元に戻る儀式に数日かかってるとか!」
「ごめん……魔王様は早く元の姿に戻りたいだろうし……」
「そうじゃそうじゃ、戻りたいぞ」
ぷんぷんと頬を膨らませながら、小さな魔王様は、今度はガーゴのツノにしがみついている。
「次の機会にしましょう。何度も探索していれば情報が集まるはずです」
ガーゴは至って冷静に告げる。
「むむぅ……」
魔王様は納得できていないらしく、ガーゴの頭をペちペちと叩いている。
「しばらくはスライムを寝床にされるとよろしいかと」
「おお! 名案じゃの!」
魔王様の機嫌もどうにかなりそうで、ガーゴに抱えられたままホッと胸を撫で下ろす。
「お前が最優先とすべきは魔王様の安全だ。それを忘れるな」
「……ごめんなさい」
「そして今回の場合、お前の安全はすなわち魔王様の状況に直結している。次からは見誤るな」
「ガーゴって案外同僚にも優しいね」
「落とすぞ」
「ごめんなさい」
遠目に魔王城が見えてくる。どうやら、今回のは幻覚じゃなさそうだ。

ちなみにその晩の魔王様は、スライムの寝床で涼めてご満悦だったらしい。


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