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リレー小説(お題:ジト目の魔王様が押してだめなら引いてみる/目つきの鋭いブルースがソフトクリームを別のものと間違える/中学生のクロウが衝撃を受ける)

執筆:Gamygyn、咲耶、u17(執筆者別に色分けする

 近頃、魔王様と言えば、まるで政務にやる気を見せず、無気力な顔をして、木製の椅子に腰を下ろしてボーっと遠くを見ているかと思えば、勇者軍の攻撃の知らせを聞いても「放っておけばいいと思うのです」なんて言い出す始末。何か、心に鉛のように重いしこりでもあるのでしょうか。と、私が訊いても「別に……」と上の空。どうされたのでしょうか。
「と、我に言われてもな…」
 急すぎる相談に、思わず言葉が詰まった。いや別に俺、じゃない我は魔王と親しくない。だから別を当たれ、と言いたいのだが、それでは我の沽券に関わる。
「フ…そういうことなら良いあてがある。クロウ…じゃない黒き鴉に尋ねろ。奴なら答えを知っているさ」
 と、我は華麗にアドバイス。我の言葉を受け止めた名も知らぬ魔物は我に感謝し、意気揚々と去っていった。さて、我も至上の甘味を求め出立するとしよう。
 我は甘味評論家である。北は魔王印のフォレノワール、南は人間の王国が賛美をたたえたというトルテ。魔物が作ったもの、人間がつくったものに限らず、我は甘味を堪能し、その味を記事にして魔導新聞社に寄稿していた。
 今日我が食すのは、コロシアムの付近でゴブリンが始めたという出店のスイーツだ。なんとも美味であると評判であるらしく、その評判は魔王城にまで聞こえてくるほどだった。
 意気揚々とコロシアムに出向く。すると、先ほど我に相談してきた名も知らぬ魔物が、そこにいた。そうか、黒き鴉はここに住んでいるのだったか。
「あれ、貴方様は……」
「また会ったな。名も知らぬ魔物よ」
「ああ、私は、魔王様の世話係をしているリッチと申します……」
「リッチ……、だと。所謂、死神の類ではないか」
「ああ、はい……。一応、弱い者なら触るだけで……」
 なんと、この魔物は危険すぎるではないか。ひ弱そうな語り口に誤魔化されそうになった。私は甘味評論家。死神と対峙して勝てるはずがない!私が、身の危険を感じて後ずさりをすると、
「ああ、ま、待ってください!く、黒き鴉はどこに……」
 と、泣きそうな声で我に追い縋ってきた。我、かなりのピンチである。
「探しても探しても見つからないんです。このままでは魔王様は……貴方様だけが頼りなのです……」
「わかった、わかったから我に縋るのは止めろ!……リッチよ、お前も魔王の世話係ならしっかりしたまえ」
「す、すみません……」
 我の一喝でリッチは姿勢を正した。まったく、危うくスイーツを食す前に逝くところであった。黒き鴉。確かあやつの住所は我の手帳…もとい甘味備忘録の巻末に記してあったはず。はて、どこにしまったか。懐を探してみるものの、なかなか見当たらない。
「何かお探しなのですか?」
「うむ。我の甘味備忘録にあやつの住所が記してあったはずだが、それが見当たらぬ」
「ええっ!私も探します!」
 と言ってリッチが私の上着の内に手を伸ばそうとする。死の唐突な接近に焦った我は、「やめろ!俺に近づくな!死んじゃうだろ!」と慌てふためいて距離を取った。その拍子に、内ポケットのどこかにあったのだろう手帳が、ぼとりと足元に落ちた。
「ごほん。確かにこれこそが我の甘味備忘録である」持ち上げ、中身を確認する。そこには元討伐隊員の連絡先と住所がびっしりと書き連ねられてあった。
 討伐隊……懐かしい響きだ。今は別の勇者軍とかいうやつらが魔物とやりあっているそうだが、それは我とは関係のないことだ。
「黒き鴉は、ギャラックの持ち家を受け継いだらしい。コロシアムの裏手にある屋敷だ。案内してやるから、ついてきたまえ」
 手帳を閉じて、リッチにそう言った。

「ここだ。此処が、クロウ……、黒き鴉の家だ」
「な、なるほど。確かに、鴉が出そうな……」
 そこに立つ家は、彼の言うような屋敷ではありませんでした。茅葺屋根に、汚れの染みた木造の壁は白蟻の齧り跡が目立ち、やや、傾いているような気もします。風が吹けば、玩具の様に崩れてしまうのでは。私は、魔王様の件とは別の不安を芽生えさせてしまいました。
「鴉が出そう……。確かにな、だが、中に入れば印象は変わるであろう。さて、我はゴブリンのスイーツ屋に行くとしよう……」
「あ、は、はい……。ありがとうございました」
 私は、彼に対して深々と頭を下げました。そうして、小さくなる彼の背中を見ながら、ゴブリンのスイーツ屋台は、三日前に雪原の方へ居を移したのを思い出したのでした。
「うーん、雪原は結構距離がありますし、とりあえず……たのもー!!」
 私は魔王様に傅くもの。まずは魔王様を何とかしなければ。私は声を張り上げ、建てつけの悪い戸を叩きます。……無反応。
「……すみませーん!紹介があってこちらに参りました、魔王様に仕えるリッチと申します!お忙しいところ申し訳ありませんが、なにとぞ話だけでも聞いてください!」
 私はさらに声を張り上げ、黒き鴉様に呼びかける。私の大声を浴び戸が多少腐食してしまったが、今は手段を選んでいる場合ではない。……しかし、やはり無反応。どうしたものか。私は頭を抱えた。……そうだ、ここまで導いてくださった恩人の、あの人になりきって考えてみよう。となると……甘味か?
「黒き鴉様!きっと貴方様も甘味がお好きなのでございましょう!ここまで導いてくださった方は、貴方様と仲がよろしいと伺っております。同好の士すなわち甘味の士であるに違いありません!このまま居留守を続けるというのであれば……私にも考えがございます!貴方様を甘味の魅力で引き込んでみせましょう!貴方様の目の前で絶品の甘味を堪能し、そうして貴方様のご興味を引き、その戸を開けさせてみせましょう!……さあ、首を長くしてお待ちくだされ!」
 と長々と宣言を立ててから、私は恩人を追いかけようと振り返りました。ゴブリン屋台が雪原に移ったことを、彼に伝えねばなりません。そして彼とともに評判の甘味を手にし、再びここに舞い戻るのです。
 ……という計画は、しかし、振り返ったその途端に、崩れ去ってしまいました。
「おまえ、何」
 振り返ったそこにはまさしく、黒き鴉様が、学ランに身を包んだ姿で立っておられたのです。
「く、くくく黒き鴉様!?ご在宅ではなかったのですか!」
「いや、普通に学校だったのだが。中学生だし。いや、ところでおまえは誰だ。おれの家の前で何をわめいている」
「い、いや、その、魔王様が無気力になってしまって……」
「その前に、上がれ。玄関で立ち話っておかしいだろ」
 彼は家の戸を強引に開けると、中へ入って行ってしまいました。

「んで、魔王が無気力だって……」
「は、はい……」
 私は家の内部を見回しましたが、やはり、想像通りです。壁は白蟻の齧り跡だらけで、家具も年代物というより、ただ無駄に古びただけ。黒き鴉様と、私が腰を下ろしているのは、布切れの上……。煎餅座布団ともいいましょうか。紫の布が茶色の埃に塗れてできた汚い布の上です。
「まあ、魔王だって無気力にはなるだろ……。忙しけりゃ……」
黒き鴉様は私の事など気にも留めず、カバンからノートとテキストを出して床に置きました。
「あ、あの……」
「宿題やるから」
「そ、それでは……」
「もう帰って。話は聞いたし」
彼は床に置いたノートに対して、背中を丸めて何かを書き出してしまいました。これでは、私がここに来た意味が。
「あ、あの……」
「もう帰って」
「その、これで私の相談に……」
私が取り出したのは、抹茶のクッキー。私が好物で持ち歩いていたものですが、最早これを手土産にするしかないでしょう。背に腹は変えられません。
ですけれど、黒き鴉様はそれを見るなり、
「そ、ま、抹茶の、クッキー……」
「あの、これで……」
「僕、抹茶のクッキー大好きなの。ちょうだい!」
 ……さっきまでの塩対応とはうって変わって、黒き鴉様は私の方に身を乗り出しクッキーをねだった。あまりの差に私は一瞬固まってしまったが、黒き鴉様が目の色を変えてねだるならば差し上げよう。
「さ、左様でございますか……では、つまらないものですが どうぞ」
 私は黒き鴉様にクッキーの入った箱を差し出した。黒き鴉様も受け取ろうと私の方に手を伸ばし……。
「ちょーっと待ったー!」
 突然、背後の戸が爆発した。私は思わずクッキーの箱を床に落としてしまった。何者か。
「クロウ、じゃなくて黒き鴉!知らない人からむやみやたらに物をもらうんじゃない!」
「うわ、来たよ……おじさん、おじさんは人の家を破壊しないように気をつけるべきだね。直す費用だって馬鹿にならないんだからさ」
 戸を破壊したのは先ほどの恩人だった。走って来られたのか、はぁはぁと肩で息をなさっている。青い特徴的な髪が、呼吸に合わせて揺れ、隙間から鋭い目つきが射貫くように私たちを捉えておいででした。
「我をおじさんと呼ぶな、黒き鴉。そなたこそ、我と同い年のくせしていつまでも中学生を続けおって……もう今年で34だろう?」
「そういうおじさんこそ、いつまで評論家きどりでふらふらとスイーツめぐりをしてるんだよ。親御さんが嘆いてたよ!」
「親のことは今は関係ないであろう!」
 何やら、このお二人には浅からぬ因縁があるようでした。
「それはそうと、どうしたのですか?」
 このままでは埒が明かぬと思い、私はお二人に声をかけました。
「ああ、いや。どこを探してもゴブリン屋台が見当たらなくてね。そなたたちは心当たりがないものかと思い、戻ってきたのだ」
「ゴブリン屋台なら、雪原に居を移しましたよ。先ほどは言いそびれてしまいましたね」
「なんと!道理で見つからぬわけだ。仕方ない。今すぐ雪原に向かわねば!」
 そう言いながらもなぜか彼はこちらのほうへとずかずかと歩み寄ってきて、床に落ちたクッキーの箱を、なんとはなしに拾ってしまいました。
「あの、何を……」
「我は甘味評論家ぞ?この抹茶クッキーの味も確かめる必要がある」
 そう言って、箱を持ったままその場をそそくさと出て行ってしまいました。
「うわ!やりやがったな!リッチさん!あいつを追いかけよう!せっかくのクッキーをよくもブルースめ……!」
 そのときになってようやく私は、彼の名前がブルースだということを、知ったのでした。

 そうして私と黒き鴉様は、ブルース様を追いかけて雪原にやってきました。
「追い詰めたぞ、ブルース。食べ物の恨みは恐ろしいから!」
黒き鴉様は、一振りの剣を抜きました。そして、その切っ先をブルース様に向けて、
「その抹茶クッキーを返さないと、殺す」
「そ、そんな、物騒な……」
私は、慌ててぎくしゃくとするばかり。いくらなんでも、クッキー如きで命が失われてはいけません。
「ブルース様、黒き鴉様に、どうか抹茶クッキーを」
「我に指図するか!この抹茶クッキーは相当な銘菓ではないか。こんな34にもなって中学生をしている愚か者には勿体ない。我のような美食家が口にするべきだ!」
「煩いおじさんだ!もういい!」
黒き鴉様は、ブルース様に斬りかかっていかれました。かつての仲間を食べ物の恨みで殺そうとするなんて!私は思わず両手で顔を覆いました。
「何をする!我を殺せるものがあるか!」
ブルース様はその太刀を避けたようです。ですけれど、黒き鴉様は身を翻して斬りかかる。これでは、これではいけません。
「フッ、お前は甘い!我にそう何度も同じ手が通じると思うなよ!」
 ブルース様は黒き鴉様の斬撃を避け、逆にがら空きになった黒き鴉様の懐に握った拳を叩きこみます。
「ぐっ……」
 ブルース様の細腕からとは思えない重い一撃に、黒き鴉様はその場に蹲ってしまいました。げほごほと咳き込む黒き鴉様はしばらく動けそうにありません。それに引き換えブルース様は、悠々と積もった雪を踏みしめゆっくり黒き鴉様の前に向かいます。次の一撃を食らってしまえば、黒き鴉様がどうなってしまうか。分かりきった結末に、私は身を震わせました。
 あぁ、どうしましょう。どうしてこんなことになってしまったのですか。いったい何が、二人の友情を引き裂いたのでしょうか。魔王様、どうか二人を助けてください……。
「さぁ、こいつで止めだ。クロウ、最期に何か言い残すことはあるか?」
「……抹茶クッキーをよこせ……っ」
「そうか。残念だ」
 ブルース様が拳を振り上げます。しかし振り下ろそうとする、その瞬間――!
「ゴブリン屋台の絶品スイーツ、完売でーす」
 という声が響き渡りました。雪原で長い列を作っていた屋台で、その店主のゴブリンがメガホン片手に完売の事実を周知しています。
「そん、な……」
 ブルース様はそれを聞いて、へなへなと座り込みました。よっぽど楽しみにしていたのでしょう。その隙に、黒き鴉様がさっと身を起こし、ブルース様から抹茶クッキーを奪い取ります。しかし目的のスイーツを食べられない失意の中にいるブルース様は、それを防ぐこともできず、ただじっと悔しさを噛みしめておられる様子でした。
 黒き鴉様がさっそく箱からクッキーを取り出し、慌てて口のなかに放り込みます。もぐもぐと頬を膨らませて咀嚼し、飲み込んだ後、その目は純真なこどものように目を輝かせました。
「衝撃的な美味さだ!革命だ!これはやばいやつだ!」
 何やら語彙が足りぬような言い回しではございますが、黒き鴉様はこうして確かに、私の差し上げた菓子折りを堪能されたのでありました。
「喜んでいただけたようで何よりです。では……」
「あ、ああ。魔王のことか、それはもちろん全力で協力するよ」
 そこへ、屋台のゴブリンがやってきました。
「あんたぁ、甘味評論家のブルースだろ?食べにくるってメールしてたのに全然来ないから、もう売り切れちまったよ」
 ブルース様は、座り込み失意に包まれたままゴブリンを見上げます。
「ほら、ソフトクリームをおまけにやるよ。今度こそは良い記事を書いてくれよな」
彼が、手にソフトクリームを取った時でした。
「ちょっと、リッチったら、どこ行ってるのー」
そこに現れたのは、なんと魔王様。
「ま、魔王様!」
「リッチ、ちょっと出かけてくるって言って全然戻ってこないんだもん」
相変わらず力の無い様な目に、軽蔑の意味を乗せて私を見てきます。
「そんな事より事件事件。あの、リッチも知ってるでしょ、城の開かずの間」
魔王城の開かずの間……。そんなものありましたでしょうか。
「はて、そんなもの……」
「地下倉庫の隣の扉だよ。あそこの扉、開かなかったじゃない」
「いや、地下倉庫の隣というと、魔法の研究室ですよね」
「そうそう、変な儀式に使う装置とかがあってびっくりしたよー」
「でも、扉は開きますよ。何をおっしゃっているのです、魔王様」
「あそこの扉さー、ドアノブ掴んで押しても押しても開かないんだもん。だから、ドアノブ掴んで引いたんだけれどー」
「あそこの扉だけ、引いて開けるんですよ。押すと、棚に扉が当たったりしそうになるから、ガーゴイルに頼んで設計を変えてもらったじゃないですか」
「そうそう!引いたら開いたの!びっくりしてさー」
魔王様の軽い様子に、私は呆れてしまいました。全身から、一気に力が抜けて行くようでした。
それでも、私は魔王様の教育係です。私は魔王様の両肩に手を置いて、
「それ位の事で大喜びしないでください!考えなくたってわかる様な事じゃないですか!貴方様は、魔物達の頂点におわす方なのですよ!」
そう言って、魔王様の方を見ると、彼は、白目を向いて崩れ落ちてしまいました。
「あっ……」
雪原を、沈黙が支配しました。まさか、そんなことが……。
「まさか……、魔王様……」
「リッチさんが触ったから……」
「そ、そんな、どうしましょう!黒き鴉様!抹茶のクッキーを山ほど差し上げますから、どうか、どうか!」
「いや、もう無理だと思う……」

一方その頃。
「……はぁ。仕方ない、目的の物とは違うがこれも甘味だ。頂こう」
 受けた心の傷は癒えないが、過ぎた事をいつまでも引き摺ったって意味はない。店主の情けで手にしたソフトクリームを、我はまずじっくりと観察することから始めた。雪のように白く冷たいクリームが、コーンの上で優雅にとぐろをまいている。美しい。
「よし……では、いざ実食!頂きます」
 一口かじると、口の中に濃厚なミルクの味が広がる。美味い。流石は話題のゴブリン屋台だ、ソフトクリーム一つとっても手を抜いていない。しかも口コミによるとこのソフトクリーム、毎年改良されているらしい。人気に胡坐をかかないその姿勢は実に素晴らしい。
「うむ、美味い!気に入った!今回はこのソフトクリームの記事を書くことにしよう!」
 我は空に向かって高らかに宣言した。そしてもう一口を……とその時。足元にうごめく何かを見つけた。雪と一体化して見辛いが、我には見覚えのある魔物だった。
「うわっ!?キラースネークか、何故こんなところに!くそっ、我に近づくな!」
 脳裏にかつての記憶が蘇る。あれはそう、まだ駆け出しだったころのこと。道中、古代遺跡に寄った我らはこの小さな白蛇に襲われ、大変な思いをした。我は慌ててキラースネークを蹴り飛ばす。……よし、どうやら一匹だけのようだ。安全は確保された。気を取り直してソフトクリームに目をやる。
「……うわぁ!?こんなところにもキラースネークが!」
 なんと、もう一匹いた!しかも我の手の上に!慌てて我はキラースネークを放り投げた。……うん?いや違った、あれはただのソフトクリームだ!なんということを我はしてしまったんだ!かつての恐怖に囚われた我のせいで、罪のないソフトクリームが宙を舞い……なんと、仰向けに寝かされた魔王とやらの口の中に収まった。

 そして、ぱちくりと。
 本当にあっさりと、魔王様は蘇生なされたのです。
「ま、魔王様!」
 私は今度は決して触らないように気を付けながら、魔王様の傍へと駆け寄りました。
「あ、あれ? どうしてたんだっけ」
 魔王様が体を起こし、不思議そうに辺りを見渡します。
 でも、一体どうして魔王様は蘇ることができたのでしょう。私リッチの能力は絶対的です。弱い魔物や人間は死に絶えてしまいます。
「店主よ、ずばり隠し味に、エリクサーを使っているな?」
「お、さすがは甘味評論家。よくわかってるじゃねえか」
 と、ブルース様とゴブリンの会話が聞こえてきます。私はほっと胸をなでおろしました。
「ま、いいや。帰ろっか」
 魔王様が足元についた雪を払いながら言いました。
「僕も帰る」
 黒き鴉様もそう言って学ランのボタンをゆるめます。
 魔王様のどうでもいい悩み事から始まった、なんとも奇妙な旅路でありました。
 これにて私らの珍道中は、おしまい、おしまい。


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