魔王城にて。
星の輝くある夜に、魔王はひとりごちたのだ。
「ああ、この世が我が物になるのは、いつになるだろうか」
魔王は世界を支配することを当面の目標としていた。既にしもべの魔王軍たちの進軍により、複数の村や町は魔王の支配下になっている。しかし魔王の野望はまだ達成までたくさんの時間を要するだろう。
その独り言を、聞いている者がいた。それはガーグである。魔王の側近として仕える、ガーゴイルだ。
ああ、魔王様の願いをかなえてやりたい。ガーグは思った。主の願いは従者の願いだ。この世を魔王ただお一人のものにしてやりたい。
しかし魔王軍の進軍は完遂までまだかなりの時間がかかる。それに魔王討伐軍なるものが近頃人間側から出てきたようであるし、世界征服を達成するのはまだだいぶん先の事になると思われる。
ガーグは溜息をついた。
「魔王様、お茶をお持ちしました」
「おお、ガーグ。気が利くな」
ガーグは願う。世界を主のものにしたい。
魔王が床に突っ伏した。
それから暫くして、魔王は目を覚ました。
「お目覚めですか。魔王様」
「私は……一体」
呟いた後、気づく体の感覚。魔王は寝台に縛り付けられていた。
「どういうことだ! ガーグ」
「魔王様、貴方様の願いを叶えて差し上げたのです」
魔王はもがく。もがけばもがくほど、毒が体を巡ってゆく。
「魔王様はもう動けません。この城から一歩も出ることは許されないのです。そうすることで、魔王様の『世界』はこの城に限定される」
「なん、だと」
「そうです魔王様。貴方様がお眠りの間に、魔王城の部下たちをすべて殺めてまいりました。この城にいるのは、魔王様とわたくし、二人だけなのです。――この『世界』は、魔王様、貴方様が支配されたのです」
魔王はもう動けない。ただ最後の力を振り絞って口を動かす。
「どうしてこうなった」